第122話 噓偽りなき俺


 実は俺、ガラケーの意味も知らなかったんだよ。王子くんに、ガラケーってどんな携帯のこと?って聞いたぐらいだから。実はこの間、日本で携帯買い替えに行くの、王子くんについてきてもらったから。


 王子くんほんとね、なんでも知ってるね。具体的なこと。王子くんといると楽だった。全部決めてもらった。画面の大きさとか、カバーの色とか、俺がわかるのは、「こういうのじゃないと不便」っていうのだけで、それと、どれを選ぶのかがうまく繋がらない。


 王子くんは、そのニーズならこれ。


……と、どんどん、絞っていってくれたから、助かった。スマホは決まってた。だって、それまでもスマホだったから。


 パソコンの時もそう。時々書いている、大手企業のお姉さんに、買う時、ついてきてもらった。俺、これこれこういうのが欲しいんです、っていうのしかわからない。細かいことはわかるけど、決められない。


 王子くんもお姉さんも、俺と仲良くなる人はみんな同じタイプだ。


 俺、携帯電話の歴史、電子機器の歴史も一応詳しいよ。それなのに、ガラケーって何?って聞くってところが、頭の構造よくわからないよね。よく言われる。


 話してると、頭がおかしくなってくる、と弟に言われたことがある。現実の認識の仕方が、全く違うらしい。同じ体験をしているのに、受け取り方がそこまで違って、俺の世界に入ると、何がちゃんとした現実かわからなくなるんだって。


 I先生も言ってた。実際の事実と、内面の思いなんかがごちゃ混ぜになって、読み解きが難解になる、と。


  俺にとっては、ごく普通のことが、他の人には共有しにくい特別なことになってる。よくわからないんだけど、一緒にいる人に、俺の顔を見て俺ばかりと喋ってると、世界がなんか、全く別世界に見えてくるんだって。


 映画でも見てるみたいな、映画の中にいるみたいな。そういう変な錯覚起こす、って言ってた。


 俺、追いかけられたりする時は、そういう感じで執着されてしまう。俺がいなくなると、世界が変わっちゃうじゃん。俺はその世界に必要不可欠なわけだけど、俺は、相手のファクターじゃねえ。生身で生きてるから、俺の全てを対象の人に捧げるわけにいかねえ。


 で、おかしなことになり、逃げ惑わないとダメになる。幸い、そこまで執着されることは減った。俺、空気目指してるし。それに良い人演じない。最初から、とんでもなく失礼、壁のある人、そうであれば自分を守ることができる。その術に長けてきた。


 ああでも、これ、俺の知ってる人で同じような状況になってる人がいるから、まるで珍しいことでもないのかもしれない。俺たち、人でなくて「ファクター」なんだよ。対象にとって。


 だからさ、俺自身、前に書いたことあるけど(カクヨムでない)、俺自身、電子的な情報でしかない。現実の生身の自分にほぼ意味ないから。


 電源切ったら消えて無くなるような情報。チェックする人がいないときは、存在してないのも同然。俺ってそういう存在なんだよね。俺自身にほぼ意味なんてない。「索引」みたいなもんだから。


 もしくは、催眠術導入の呪文みたいなもんだよね。それ自体に意味などない。魔法の言葉に見えて、その言葉じゃなくたって、催眠状態に入るのは、どんな言葉でもいいわけ。



 

 医者の友人に、お腹の中の構造のことを話した時に、「ごめん、確か、さすがに文系であっても、「生物」取ってたよな。その認識、面白すぎるから、あいつ(別の医者の同級生)にラインで共有していい?」と言われたことがある。


 俺、なんか知らないけど知識が偏ってるんだよな。まあ、前世とかの記憶とバラバラに知識があるから、「感覚的な現実の認識の仕方」をしていて、実際のリアルな現実世界の仕組みについては、よくわかってないのかもしれない。


 「岬、お前な、血液は血管の中にあるの。イエス・キリストの皮袋に入った葡萄酒みたいにな、穴開けて破ったら、ダダーッとお腹に入った血が流れ出てくるって、お前……その認識な、幼稚園児並みだぞ。生物の授業、寝てたんか?!」


 友人からそう言われるまで、血の中に腸や胃が浮かんでると思い込んでた俺です。血管があるの忘れてた。だからお腹を切ったら、突然にだだーっと、パンパンに張った風船から水漏れするみたいに「血だらけ」と思ってた。


 ちなみに、俺、生物は得意な科目、点数も、成績も良かったんだよ。いや本当に。


 なんでだろう?なんでかな?


 生物の先生はゲイだという噂があったが、それとは関係ないと思う。一切。



 

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