第123話 筋トレメニューとJさんの写真



 何でこんな写真持ってるの?


 飛行機の中で、細いが筋肉モリモリな精悍なイケメンと話してた俺は、和やかに筋トレの仕方の詳細を聞いていたところだった。


 Jさんが教えてくれた方法は、Jさん独自のものだったのか、意外に、トレーニングは系統だった感じじゃない。共通の何か、まあいわば軍隊推奨メニューがはっきりあるのかと思っていたが、どうやらそうでもないようだ。


 Jさんは既に頸椎をやられてるので、一緒にトレーニングなんてあんまりできない。機会はゼロじゃなかったが、出会ってから今と比べると、Jさんの健康状態は緩やかに悪くなってて、トレーニングのマシンも、とうとう、最近、処分してしまったくらいだ。


 俺んち、日本ならおんなじようなマシン、兄貴や弟と共有していたが、それちょうだい、と俺も言う間もなく、処分されて残念。


 Bはそういうの、意外に使わないから、もらったら怒られるに決まってる。他国にいた時、ジムでは使ってたけどね。


 で、飛行機で出会ったイケメンは連れのイケメンに写真を見せ、俺、このイベントの時、ここにいたんだけど、もしかして、俺たち、すれ違ってたかな?と言った。何年か前だろうか、それとも今年?


 俺は、いや、俺らはたまたま、イベントの直後に行って、それでこの写真撮ったから、と言った。俺とJさんは、匍匐前進とかしないし、泥の中にジャンプインしたりしません。


 あ、でもJさんはどうしてもやりたくて、俺がいない日に挑戦し、ずぶ濡れになったそうだ。


 その気持ちはわかるが、なぜ俺を誘わないのか。


 Jさんはふらっとやってみたくなったらしい。まあ、だから俺は、イベント自体は知らないです、と言った。


 まあもちろん、普通の人は知らないイベント。参加もできないんじゃないか。告知などしていないだろう。知らないけど。


 いや俺は、平和主義者ですよ。ただ、トレーニングに興味あるだけで。外見からそうは見えないですが。


 俺が昔、この国ならあると興味で調べたことがあるんだが、今やほんと、何もかも情報が簡単に手に入るようになった。選抜試験の内容の詳細ブログとか引っかかってくるもんな。


 で、キーワードは常にあえて書かないが、まあ雇われて、仕事であんなことやこんなことを、それこそまあ、やる仕事です。体が資本の。俺は挑戦したことがありません。チキンですから。


 まさか自分が本当に、この国に住むことになるとは思わなかったが、Jさんに寄ると、日本と合同トレーニングしたことあるよ、ということだった。


 日本は一般にはあんまり知られていないけど、やっぱりアレらしい。


 俺は見限って日本を出た形になったけど、海外で聞く日本の噂は、日本はダメだね、というものは少ない。少なかった。今はさすがにちょっといろいろアレだが。日本ブランドはまだ大丈夫で、俺はその恩恵を受けているな、とよく思う。


 俺が一番、筋肉があった頃って、洋服に気をつけよう、と思った。


 俺、実は、外から見て、筋肉隆々とかは、心の中で「筋肉バカ」と勝手に文字が浮かび上がってくる方。実は美的に好きじゃないんだよね。


 それってすごく矛盾してない?


 だから、できるだけ目立たないというのが重要と思い、現に俺がそういうことにすごく興味がある人間って、外見からは絶対にわからない。話すと意外だと思われる。


 決して内気ではないが、多分見るからに文系で、ひ弱っぽいチャラい。チャラいというか、ものすごくファッション系?もしやゲイ?と思われるような感じで。


 かわいいと言うな。馬鹿にされてる気がする。


 俺がファッション系と思われるのは、特殊なものが好き、というモノ派であるからかもしれないが、それが邪魔になる時は、できるだけスポーティでも地味な色、目立たないものを選ぶこともある。多分、そうしていると、ディスクリート。結局、趣味の問題なんだろう。俺、どうやったら目立たないのか、わかっているのに、好きなものが特殊すぎるのかもしれない。


 まあ、だからせっかく安心してくれていろいろ話してくれていたのに、惜しいことをした。向こうに帰ったら友達になろうぜ、遊ぼうぜ、という直前に、Jさんの写真のせいで、向こうが固まった。


 Jさんに新しい友達できた〜w


と言ったら、Jさんは嫉妬するかな?


 そう思ってたのに、イケメンは固まって、口を閉ざしてしまった。これはメアドなど聞ける雰囲気ではない。Jさんの写真、あのイベントの旗を持ってる写真だったから、「え?君ら、実は軍の関係者だったの?」ということになってしまって、たまたまです、と言ったけど、もうダメだった。何も話してくれない。


 Jさんと俺は、出会ってからは親子のようにべったりだったから、俺は、ちょっと親離れの時期を逃した気分になった。Jさん以外の友人が欲しかったのに。特殊な友人。俺と話ししても違和感ないような人。


 友人の友人がパーティに来ていて、一度だけ会ったことあるが、その人は当時ア@@ニ@@@にいて、戦地の取材をしてた。一時帰国中で、詳しく話を聞こうとすると、Bにツネられた。


 Bはそういうの嫌いで、俺がひっそりとそういう面白そうな人を見つけ話そうとすると、割って入って来て、当たり障りのない話題にすり替え、去っていくのだ。


 お前、目立つな、外国人だろ。


 Bが言うのもわかる。外国人だからな。Jさんも言ってた。喋る内容に気をつけろ、お前、外国人だからな。


 外に書いたけど、Jさんの息子さんは、もう正直ね、俺が知る中でも一流のイケメン。


 俺、ほんと話題が軽い。頭の中身が軽い。たくさん文章を書くと、こういうことが起こります。次からはJさんの話題は出さずに友達になろう。


 俺引っ越し前ね、パトカーをヒッチハイクしたことがあります。


 たまたまね、道を聞いたら、覆面パトだった。すごくその人、いい人で、「乗っけてやる、すぐそこだから」と。


 そういうことはよくあって、俺、見た目で得をする。絶対に悪者には見えないから。で、俺がランプ見せてくださいよ、と言ったら、見せてくれた。ほらよ。


 俺その時は、メアドの交換しなかった。俺も急いでたんだよね。書類かなんか出すのに。なんか懐かしい。


 他にも、日本でいう新幹線に乗っていて、どうもトイレに爆発物があるらしい、と騒ぎになったことがあって。



 普通はこのケースね、爆破しちゃうんだよね。疑わしきものは全て爆破。



 でもなぜかその時、専門家が車両にたまたま乗り合わせていたらしく、爆発物でない、と、爆破がなかった。その時に乗っていた人と、たまたま立ち話して。


 警察の中でも、テロ対策の警備してる人で。短い旅の間に一瞬で意気投合した。面白そうな話が聞けそうだ。俺、メアド交換したのに、その後すぐ引っ越すことになって。


 思ったら全部、おとぎの国への引っ越しで断絶しちゃってるな。


 この間、偶然出会った人は、スタッドの警備をしていた軍警察の人だった。リタイアして、家の中のアンティーク、ブロカントの処分で。


 俺がその話を耳ざとく知って、Jさんからもらったキーホルダーを見せたら、俺も君に何かプレゼントしよう、と。


 なんかそういうの多い、俺。俺が子供のように目をキラキラさせてるからかもしれねえが。


 で、その人は、ベルトのバックルを俺にくれた。ふふっ。俺、コレクターだからなんでも集めるよ。いつかちゃんと取材して、現役時代とかの話を集めていきたいな、と思ったんだが、なかなかね。


 Jさんから聞くことは簡単だったが、やはり仲良くならないと難しい。


 俺はどんなジャンルでも、年取った人から、昔の話を聞いて集めるのは大好きだから。フィールド・ワーク的に人と話すのは、実は趣味。でもBといると、いつも遮られる。俺が根掘り葉掘り、聞き出しているように見えるらしく。


 でも大抵の老人は、俺と話すことをとても喜んでくれるんだが。B、お前、老人の心理を全くわかってない。俺の周りが年取った人になるのも、俺に理解があるからなんだよ。人は自分の歩いてきた歴史を、誰かに話して残したいものなの。


 俺はものすごい詳細も聞き出すから、それこそ、映画みたいに色がついたストーリー、それぞれのストーリーがすごいな、と思うよ。ごくごく普通に生きた人であっても、本当に宝物のように、それぞれの人生というのは、キラキラと綺麗な瞬間がたくさんあり、俺が「忙しい」という言葉が嫌いで、自分からできるだけ遠ざけて生きるのも、そういう「宝石のような瞬間」をひっそり拾い集める趣味があるからだよ。

 




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