第103話 母さんに株の話

 

 どう?この話、知ってる?


 母さんに言うと、そんなの珍しくないわ、いつもどこかで日本企業は、海外の会社と組んで開発やってるし、と言った。


 やっぱりね。


すでに、そういう会社の株というのは良い値段なのだ。当たり前だけど。


 母さんが、あなた頭もいいし、勘も鋭いのに、なぜ真面目に株やらないの?と聞いた。ちょっと勉強したら、あなたなら常に勝てるんじゃないの?



 俺は、そういうマネーゲーム的な金儲け興味ないんだよ、と言った。自分の能力をそういうことに使うのは良くないと知ってるから。



 母さん的には、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ、と言いたげだ。はい、そうですね。そう思います、俺も。



 で、Jの従兄弟からの情報は、日本企業?相変わらず好調だよ、と景気は悪くない、という。オリンピック・バブルか。



 俺はあまり日本の行く末を期待していない。だから海外に出てるわけだが。



 でもなんやかんやと、一応は日本はまだ、底力がある方だ。瀕死の老人だけど、まだ金がある状態。頑張れ。



 兄貴が最近売り出したやつに当たった。おお、当たったのか、すごいな、いいな。


 母さんは、わたしは外れたわ、知ってれば@@(証券会社名)から申し込んでおけば、意外とあそこは穴場だったらしいから、と言った。



 売り出せば上がるとわかっていて買わないのは確かにもったいなかった。俺も、あそこの株は上がるから、買っておくに越したことないぞ、と母さんに言った。


 よく考えたら、自分が買っておけばよかったのだ。馬鹿だな、俺。


 俺は、預金封鎖はありえると思っていて、NISAは小賢しいと思っていた。


 庶民からできるだけ、金を巻き上げるための小細工だろう。


 リーマンショックで母さんもJさんも実は相当損したらしかった。俺は後になって知った。Jさんは仕事柄というのもあり、すごく儲けていたらしかったが。


 俺がJさんに出会った時、既にやめた後だったが、この国で株してる人、俺あんま出会ってこなかったから、面白い。


 俺はあまりお金に縁がないが、不思議と困ったことはそれほどない。全くないわけじゃないが。で、どうしても浮世離れしたような感じになる。俺はずっと昔からほとんどそんな感じで、勤め人とか全然向かないタイプ。独立やフリーランスならどうかと思ったんだが、全然稼げない。


 兄貴的に、今の兄貴の状況はそれ以外は全く良くない。いろいろ重なり、全て更地にするか、という話が出ている。突然だった。


 俺のストレスの原因はそこだった。俺は日本に帰りたくない。でも、ここで何かを積み上げようとして、結局、砂の城、今の俺は単なる砂漠にいる。


 兄貴は浮き沈みが激しい。せめて、今回、ガツンガツンと稼いだら、ちょっとは気分もましになるだろ。


 俺にも影響するから、頑張って。



 こんな他力本願で、I先生が「君、掛け声だけじゃダメ。ガッツが足りない」と俺を一喝した。


 状況が最悪なのはよくわかった。その病気はストレスからくる痛みで、病因は心理的なものだぞ。検査しても大した結果は出ず、痛み止め処方になるだろう。



 I先生は予言した。


で、驚くことに、その予言は今のところ当たってきたのだった。やはりすごいな、I先生。


 俺は、I先生に呆れられて、なぜガッツが足りないのか考えた。


 ガッツが足りないんじゃない。方向性の問題。


 俺はあさっての方向に常に努力している感じがする。そしてそれが、俺が変わっている、と言われる所以なんじゃないだろうか。


 価値観の問題だ。俺が価値を見出して、面白いな、と思うことというのは、他の人に理解されるのに時間がかかりすぎる。


 兄貴がそう言った。お前、続けろよ。いつでも。


 お前が昔やっていたことってな、今頃、いつもブームが来る。ってことは、お前、5年も6年も先すぎる。タイミングが早すぎる。


 俺は、兄貴がようやく俺のことをわかってくれた気がした。そうだよ、俺は先を見てるから。だいたい形になると、最後まで終わらずに次に行ってしまう。だから、結果が出ないんだ。結果を出すことよりも、波乗りのように、新しいものを追ってしまうから。俺がやることって、結局いつも、結果を求めてのことでなく、新しいこと、刺激的なこと、面白いこと。


 子供のように無責任なわけなんだが。こういう性質を生かして何かできないのか模索して、なんともならなかったのが今、ということになってしまう。







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