第102話 Bの従兄弟と株とスパイと。


 Bの従兄弟はNYで会社名を聞いただけで、おお、と後ろから後光が差すような会社に勤めている。コンピューターエンジニアでもハードの方、開発だ。


 こんな俺でも、目をキランキランさせて、つい話を聞いてしまう、花形。


 シリコンバレーのカンファレンスに行った時にどうこうとか、自然に言われただけで、文系の俺は、俺の頭があまりに単細胞、単純な構造で生まれきたことについて恨む。話についてけねえ。しかも現地語だ。Bの従兄弟はもちろん英語がペラペラ、だから俺は大好きだ。英語だとホッとする。とりあえず英語なら、何を喋っているのかわかるからな。


 俺も英語圏に移動しようかなあ。語学がストレスになってきた。


 Bの従兄弟のお父さんは、物理学の教授だったから当然、頭がいい。うちの父さんは、院に行こうとして、教授から蹴られてるからな。俺も同じ。


 俺の場合「君、勉強好きじゃないでしょう」と教授から「は な し に な ら な い」と、全く取り合ってもらえず、笑われたが、うちの父さんの場合、自分より成績が下だったやつが通ったらしく、やはりアカデミックな世界も、人柄で淘汰が激しい。イマドキは院なんて、高学歴ニートの時代だから、むしろ悲惨かもしれないが、Bも出自から当たり前だが、院やMBAや今頃になってこだわったが、残念なやつだ。


 Bの場合、地の頭がすごくいい。なのに、学生時代、子供の頃から10代と、最も大事な時に、全然勉強していない。あれだけ頭が良かったら、何にでもなれただろうに、本当に馬鹿だな。


 俺みたいに元々はあんまりで必死でやって、今この程度、あんまり必死にやった意味なかったな、という人生なのに、Bくらい元の頭が良ければ、付き合う人なんかも全然違ったものになったろうに。俺がBの父親、母親だったら、もっと勉強見てやったぞ。


 Bの従兄弟は、早くに母を亡くし、転々としたはずなのに、勉強もでき、優秀、人柄も申し分ない。素晴らしいな。人というのは環境に寄らない良い例だ。


 Bの弟は失踪した。長く失踪していた。この話は書かないが、実は、俺とBとで見つけ出した。そしてBの従兄弟に「再開」をお膳立てしたところまでは良かったのだが……まあこの話には触れないでおこう。デリケートな話だからな。


 Bの従兄弟はものすごくなんと言うか、癖もなく、親しみやすいタイプ。清貧に生活し、堅実で、奢ったところなんかも一切ない。大企業に勤めることができる人間は、そういう人が多い。申し分ない良い感じなのだ。


 で、俺は、何でもいい、何か情報ください的に、Bの従兄弟の話を聞く。そのうちに、BはBの従兄弟の奥さんとその従兄弟夫婦、俺とBの従兄弟の組み合わせで、延々と話し込む。


 今やってることとか、日本の景気の話とか、開発のこととか。


 俺は根掘り葉掘り聞きたい割りに、浅い知識しかないために、表面的なことを聞くだけで終わってしまう。俺がもっと詳しかったら、向こうも警戒するだろうが、もっと頭が良ければ楽しいのに。


 日本企業と組んで開発をしている新製品。どんな技術を使い、何を作ろうとしているのか。でも、詳しく知ったところでネットには書けない。そんな情報はネットにあるか、と聞いてみたら、ない、僕たちしか知らない、と。


 そんな情報はうっかり書くことができない。具体企業名あげただけで、全部まずいじゃないか。社外秘の話。もちろん詳しくなんて何も聞いてない。なんでもいい、話してくださいフリートークと言われようが、何も言えないというのが実際のところ。俺が、会社を入るときでも、認証とかありますよね?と、ずいぶん前に聞いたことあるが、今やそんなの、どこでもありそうだ。


 テクノロジーの進歩というのは本当にぎゃ、と短く叫ぶ時間の間にヒュるんと進むから、正直この国はある意味、日本より遅れている部分がある。


日本は何でも進んでいると勘違いしてる人が多いが、それは全くの誤り。


 だが、テクノロジーの幾つかの分野はやはり日本がすごい。日本人はいつか半分ロボットになるくらい。半分どころじゃないか。ほとんどか。


 俺は、いいなあ、きっとエキサイティングだろうなあ、と、父さんのように自分もせめて機械工学とかだったら、と、次に生まれてくる時は、絶対もっと幼い頃から勉強しよう、と心に誓った。俺が塾に行ったのは中3。遅すぎる。それまでのほほんとしていたのは、うちの母さんは、勉強しなさいとか言わない人だったから。


 勉強しろと言われたことはないが、俺は遊ぶのと同じように勉強もとらえていたので、受験テクニック的な勉強はしたことないが、百科事典的なものは、幼い頃から家にあったものを読み漁っていた。俺は、結局のところ、読むのは好き、書くのも好きなんだろう。


 海外についての写真入りの大きな日常図鑑のようなものも家にあった。未だにどの国の土産物はこんな感じだとか、観光地は、生活はこんな感じとか、覚えてる。


 はっきり覚えてるのは、エーゲ海の海がヌードビーチだということ。俺、小学生で既に知っていて、ヌードビーチ目指した。


 今?


 全然興味ねえ。


 裸の女なんて、そこらの公園でも日向ぼっこしてて、簡単に裸になるなよ、と思う。肌を焼くな。汚くなるぞ。


 話は脱線したが、Bの従兄弟から聞いて、よし、あの株とあの株、その開発の具合によってはすごく有望なんじゃね?と、単細胞に俺は悶絶して、じゃ、株のインサイダーみたいに、これから急激に上がる可能性あるかもな、と母さんに電話した。


俺ってほんと、しょうもない子供みたいだな。


 ちなみに、何かソフトの話はありませんか?オススメのウィルス対策ソフトとか?


 Bの従兄弟はBと違い、俺に「しょーもないこと聞くな」と絶対言わない。すごく誠実に答えてくれる。アメリカの現在に興味ある俺は、根掘り葉掘り聞く。政治のこととか、現地の手応えとか。


 当たり前だが、Bの従兄弟は日本人じゃないから、異邦人 in NY。別に日本人でもNYじゃ異邦人に違いないが。


 俺は、そういう海外に住む人特有の共有感覚にホッとする。自分の国以外に住む人じゃないとわからないことがいっぱいある。


 Bに馬鹿なこと聞くな、と邪魔されないで、Bの従兄弟を独り占めにしていたので、アメリカでもスパイのリクルートありますか?とおれはBの従兄弟に聞いた。


 Bの従兄弟はズバリ答えてくれたため、俺はちょっとゲラゲラ笑った。


なんていうか、Jさんぐらい率直だ。Jさんが言ってたのと同じだ。


 俺は、カクヨムがクローズだったら、シェアしたいんだが、本当に面白い話というのは、情報交換できないのがカクヨムだ。


 いきなり誰もいない公共の壁に落書きするように話さなきゃなんねーような場所で何か言うわけない。


 誰か友達欲しいな。覆面トークでいい。


 俺は、ああ、つまんねー、Jさんみたいな人ともっと知り合わないかな、と思った。


 一回飛行機の中で、めちゃめちゃに精悍な人たちに囲まれたことがあり、社内旅行ですか?と聞いたら、俺ら、@@@〜@略からの帰りなの、と言った。


 へええ。俺はその時よくわかってなくて、中のイケメンとトイレの前で雑談してたら、なんと彼らはアレだった。


 あ、俺ね、仲良い人、元ソレですよ。


 俺がたまたまJさんに焼いて、あげようとおもってたJさんの写真を取り出すと、若い男は固まった。


 え?写真まで持ってるって、まさか関係者?



 いえいえいえいえいえ、違いますよ!たまたまです、たまたま。日本で焼いて、あげようと思って。


 そう言ったが、そこからプッツリと話してくれなくなった。……しまった。



 それまで和やかに筋トレの方法なんかの情報交換してたのに、いや、あの、この人、ほら、と、Jさんの写真を連れに見せる。


 なんで、こんな写真持ってるの?



 いや、この間たまたま散歩で撮った写真、焼いたからあげたくて。日本だと安くて簡単に写真焼けるから。


 俺は繰り返したが、守秘義務を思い出したのか、黙り込む人たち。



 ハハッ、いいっすよね、いろいろと。俺はお茶を濁して席に着いた。うおおお、うっかりしたら、連絡先くれそうだったのに、残念。


 俺はJさん以外に友人が欲しかった。そういうマニアックな友人。失敗してしまった。




 まあそういうことがあったが、それでアドレス交換は諦めた。ここに乗ってる人たち、ほぼ全員そうなのに、だぜ?


もったいない。



それからあっという間に現地に着いてしまった。何かあって、地球を3回半くらいグルグルしたっていいのに。


 うっかり何でも詳しいとか言っちゃいけない。よく知ってる?なぜ?と思われて、一般人じゃないのか、と疑われ、情報をくれなくなる。


 Jさんが、あんまり嗅ぎ回るなよ、単なる趣味でも、そういうのな、何かの時に、当局が利用しにやってくるから、と言った。


 ちょうどいい「駒」の一つとしてな、お前みたいなやつは都合がいい。気をつけろ。本人は、利用されてることにさえ、気づかせずに利用するのはお手の物だ。


 Jさんはそう言った。


 お前、有る事無い事、喋るなよ。ネットに書くな。絶対に。



思わせぶりに「何か知ってそうだな」と思われただけで、トラブルになるぞ。


絶対に や め と け。




〜〜

ずっと間違ってBの従兄弟をJの従兄弟と書いてました。

アルファベットの間違いです。Jの従兄弟は会ったことありません。Jさんはかなり年配だから。

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