第39話 女衒Jさんと俺の前世での出会い
俺は、すぐにピンと来て、変なこと言うと思わないでください、と前置きして、Jさんに話した。
俺は女の子で、あなたは俺を運んでました。俺たち、船に乗って、ボートみたいな…小さな舟。
Jさんは仕事だから、なんて言うか、Jさんが俺になんて言ったとか、全然覚えてない。ただ、Jさんの仕事はそれ。俺は、その後、体を売る仕事に就くことになる。多分、親に売られた時、家に迎えにきたのが、Jさんだった。俺たちはそこから移動したんだけど、間で小さなボートみたいなのに乗らなきゃならなかった。よく覚えてない、誰がそこにいたか、とかは。ただ、Jさんがなんだか細長い棒で、ボートを操ってたのを覚えてる。細長いボート。俺にとって、最後の普通の日だ。すごく不安だった。Jさんは、どことなく、不安がらなくていい、というような、そんな空気を出していた。でも当たり前だ。俺が不安なのは。
曇りの日で、どんよりしてた。寒かったのか、暑かったのか、そのどちらでもなかった。朝早いからか?とにかく薄曇りで暗い灰色だ。朝というよりも、もう、絶望的に空気が濃密な暗い午後だった。日没まではまだ時間があるのに、息が詰まるような灰色の暗さ。
何か特別なことがあったわけでもないし、特別な話をしたわけでもない。ただ、Jさんと俺はそこで出会ってる。Jさんは慰めるでもなく、ただ、淡々と俺を連れて進む。
俺が見えた風景をそう口にしたら、Jさんは驚いた。
意外だな。面白い偶然の一致だが、俺は今世、娼婦と働いていたぞ。
俺はその返事にびっくりした。リタイヤしたJさんの前職はまあ、うまく言えないが、国家公務員だ。公務員が娼婦とどう関係あるのか、説明しにくいが。聞かないでくれ。俺もそんなこと、Jさんから具体的に聞くまで、知らなかったんだから。アテナイの外にはちょっと書いたが、口にするのは憚られる。
Jさんはいつも彼女たちをサポートしてた。まあ、彼女たちに着いて、いろいろ……取引に近い。情報。でも、常に関係があるとは知らなかった。表の世界にも裏口があるというような、いわば、そういう感じだな。
もちろんJさんの仕事はそれだけじゃない。それ以外の仕事もたくさんある。Jさんは結構早く、天下りしているが、ずっとそっち関連だ。日本でも同じかもしれないが。
俺はJさんのことを書いていいかどうか、ちょっと自信がない。ネットのオープンな場所で、何をどう言えばいいのか。
保が、お前な、適当に脚色していろいろ有る事無い事、書く、お前自身のこともそうなら、別に俺、それを本気にしてアドバイスとか馬鹿みたいだろ、と。そう言ってた。それから保は、ぷっつり、来なくなった。
俺、本当は、本当にストレートになんでも言いたいんだよ、保。わかってくれ。
馬鹿にされてると保が思うのもよくわかる。矛盾している点が気になるというのが。必ず矛盾するかどうか、それは、俺自身が矛盾してる変な存在であることの証明になるだろ。
俺はネットですれ違っただけの人に、こんなにも切実に、俺のことをわかって欲しい、と思ったことがなかったので、それもショックを受けた。
誰にも理解されなくて良かったんじゃないのか、俺は。
なぜなんだ?なぜ今更になって、誰かに俺のことわかって欲しい、なんて思うんだろう。
俺は本当に悲しい過去生も思い出したが、もうやめておく。それが今の生に繋がっているから、全ては終わりのない円環でぐるぐる回っているのだけど、人生の仕組みというのは、そんなふうにクリアできないと終わらないゲームみたいになってる。
Jさんは今回の人生でも、俺をめちゃめちゃに助けてくれた。Jさんの顔は、不思議なことにじっと見ているとあの子にそっくりなんだ。俺の周りって変だ。
王子くんといい、Jさんといい、俺は……
俺は今の顔じゃなくて、前の顔で相手を認識することもある。だから、本当は顔の美醜はあんまり関係ないんだよ、保。
年取ったJさんの顔があの子に似てるわけないだろ、普通は。
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