第38話 前世の記憶


 俺の前世の記憶というのは、ほぼパターンが同じだ。いや、信じなくていいよ。適当に聞き流して欲しい。


 実は、Jさんと俺は、前からの知り合いだ。


 ほぼ出会う人っていうのは、なんらかの関わりが以前からある。前世の記憶を思い出すと、いつも同じことを繰り返してることに気づくんだ。驚くぐらい同じことばっかりやってる。まあ、人にも寄ると思うよ。


 人生というのは結局、学びの場で、クリアできないことを何度も繰り返すゲームと同じだ。だから、今回クリアできなかったことは、また次回に繰越になる。


 俺はそのことを知って、なんとか今回でクリアするぞ、と本当に頑張った。今回はね。


 でもそんなの、意味なかったな。振り出しに戻る、というような状態を踏んでしまった。もうちょっと、今回は、何かが変わるか、と思ったんだけど、そうでもなかった。気づいたのが遅すぎたのか。俺がこのことに気づいたのって、取り返しがつかなくなってからだからね。


 母さんにはこんなのあまり言わないけど、母さんが言うのは当たってる。いつも同じことを言う。


 岬、あなたには感謝の気持ちが足りないわ。もっと人のために生きなさい。


 言い訳じゃないよ、俺はさ、子供の時は平気でそうできたんだ。もっと俺、本当は強かった。


 途中から強くなくなったんだ。なぜだろうな。


 俺は多分、俺以外の誰かを好きになりすぎる。


 俺が弱くなるのって、きっと、だからなんだ。


 俺は注意深く、恋愛の地雷を踏まない、と気をつけて歩いたんだけど、俺が意識して、そうする、しないに関わらず、時々、すごい地雷を踏んだ。今はあんまりない。


 俺は繊細だから、本当におかしくなる。俺が悪いのは、弱いせいだ。


 もっと他の世界に集中すればいいのに。俺は、なぜ途中から、こんなふうになったんだろうな。


  阿瀬みちさんが、岬くん、今、躁なんじゃない?と言った時、すごく驚いた。


 俺、そんなの気づかなかった。いつも俺は寝食を忘れて、物事に当たる。寝ない食べない、平気。


 そういうことを繰り返すから、体がボロボロになる。


 俺、恋愛は俺の地雷だから、できるだけ遠ざけて、寝食を忘れて、夢を叶えようと打ち込んで、何度も挫折して、それでも諦めずに来たけど、本当にもうダメだ、と今は思う。


 実はさ、俺の前世って、実は変わってるんだよ。子供の頃でいつも死ぬんだ。


 だから恋愛が苦手なんだよ。俺、子供だからさ。子供の世界って、ややこしい恋愛とかあんまりないから。まっすぐストレートに好き、って感情だけで。あんまりセックスとか、そういうのと恋愛が関係していない。単に純粋で好きでいられるんだ。俺の場合、それが普通だから。大人の俺、となると、途端にややこしくなるんだ。大人だと状況が変わっちゃうから。セックスとか結婚とか。責任とか、妊娠とかさ。俺、そういうのがピンとこない。子供のままなんだろう。


 俺、女だった前世も思い出してる。ものすごく不幸な女ばっかりなんだ。俺、本当に、自分で自分の気持ちがよくわかる。


 いつも好きな人がいて、好きな人を待ってるんだ。


 でも……ものすごく不幸だ。生きるために体を売らなきゃいけない。好きな人がいるのに。


 俺は、リアルすぎる記憶の前に絶句した。俺がセックスについて歪んだ価値観があるのは、この、これらの、記憶のせいだ。リアルすぎて、俺は。


 本当に好きな人がいて、迎えに来てくれるのを待ってるのに、毎日他の男と寝なきゃいけない、教育がないから、そこから逃げられない。


 親の借金のカタに売られて……Jさんとはそこで出会った。


 俺、Jさんに出会った時、ピンと来た。俺、あなたのこと知ってます。Jさん、俺、あなたに会ったの初めてじゃないけど、覚えていますか?

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