第34話 検査結果を気にしながら
俺はラボを出て、ふらっとスーパーに寄った。
入り口で友人と会う。やあ。
やつは右手をさっとあげて言ってしまった。どうやら、氷河期のようだ。
Bが言うには、彼女とラブラブしていたのに、おそらく彼女は去った。
傍目から見ても小心で、でもなんともできないな。
そいつ、俺をすごく避けてるのがわかる。
以前に俺が、たまたまそいつと出会い一緒に散歩してた時に、驚くような過去を聞いたことがある。
そいつ、俺とちょっと似た悲劇を経験していた。まあ、俺のケースとは違うけど。
ただ散歩していただけなのに、なぜそんな話になったかわからない。誰もいない川沿いを延々と歩いた俺たちは、藪のような川沿いを歩いていた。引き返そうと言わないままに、道なき道になっていた。
そいつが言うには、最愛の女、子供も産んで、幸せだった矢先に、その子を亡くした、と言った。俺は思いがけない告白に、息を飲んだ。若くして妊娠、それでも幸せだった矢先、いきなりの悲劇。彼女は去った。
お前……
俺は驚いた。話したことなかったが、彼がなんとなく暗いのは、そういう過去のせいか。俺とそっくりだな。見た目は全く違うけど。
見かけ、そいつはちょっとファニーフェイスで、実はモテない男の典型に見える。なぜだろうな。なんとなくそんな雰囲気なんだ。何が悪いというわけでないのに、なんとなくモテなさそう。不思議だった。だからそんな話があったとは、寝耳に水だ。そんなふうに全く見えない。むしろ恋愛とか縁遠そうじゃないか。
うーん、慰めようがない。
俺は黙って聞いていて、なぜ俺にそんな話をしてくれるのか、俺たちは河原に咲いた花をちぎって投げながら、深い話をした。この国の夏は、遅い時間でも真昼のように明るい。輝くような陽光に、そんな話は現実感がなかったが、俺たちがいる場所は、全く「今、ここ」じゃなかった。
でもそれだけだ。それから、一切彼は、俺に近づいてこない。多分、俺と同じだ。話したことを後悔したんだろうな。最初で最後。
大丈夫だよ、俺、口の固いBにしか言ってない。Bは俺と一心同体みたいなもんだから、それは仕方ねえだろ。話す時にやつにも、わかってるだろうよ。俺に話す、イコールBにも言う、ってことだと。
俺はその時、何も言わなかった。どうやってその辛さを克服したのか、とか。多分、今やつがやってることが、やつを救ったんだろう。俺もな、なんとかしてトラウマやPTSDを克服したいんだけど、お前なら知ってるだろ?その方法……。
やつは催眠療法士をしていた。独立したばかりだ。ついでに武道もやっている。
俺とBは、一度そいつのやってる教室に参加したことがある。残念ながら、続けるには遠すぎる。金髪ロングで丸顔のすごく可愛い子も参加していたが、俺、武道やってる女は好みじゃねえな。どんなに綺麗でも、汗臭いと無理だから。いやほんと、汗臭い。なぜだろう。道着のせいかな?100年の恋も急速冷凍みたいに一瞬で冷めてしまう。俺はとても嗅覚が鋭いから、我慢できないんです、ごめん。
ちなみに、その部屋にさっきまでいた女が、何才くらいの人で、何系の香水を使っているかとか、俺当てられるくらい嗅覚鋭いよ?人数多いと、そうだなあ、そこにいた人の中に、フェロモン強い人がいたら、わかるかもしれない。香水使ってなくても、フェロモンも嗅ぎ当てる。滅多にいないけどね。
俺もさ、トラウマの克服に
俺は、まあそうだよな。友達だとそうなるな、と言った。俺もそう。照れ臭い。他の人がいいよな。
今日はまあ、特別だな。それから俺とやつは今まで、一切話してない。
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