第20話 そんなとこも検査?


 技師はちょっと離れたところに立って、あの、ドクターから、こっちの検査も出てるんですけど、と言った。


 え?


俺は固まった。


ちょっと待て。聞いてない。


 ほんとかよ、と思ったんだけど、まあ可能性はある。


 ちょっと待て、俺一応シャワーは入って来たけど……


「もしかして初めてですか?」


ブチ切れそうになる俺。黙る。


 初めてに決まってんだろーが。と俺は言わなかったが、何聞いて来やがる。


うぉ……


俺は無理無理無理、と思ったが、奴は、あの…僕が嫌なら、自分でやってみます?と言った。


俺は目をつぶったまま、「は?できるわけないだろ」


 技師はなんか知らないけど、すごく遠慮がちで、俺は、ちゃんと調べてんのかよ、と思いながら、それでもあっという間に終わった。


 暗い中、モニター見ながら、俺、なんかできてる、どこだ、と、俺は「次どうなりますか」と聞いた。なんかできてますよね、そこ。そこ、それ、なんですかね。


なんか、原発事故の熱源をカメラで捉えたみたいになってる。これ、なんだ?


 技師は、MRIとカメラ……飲まなきゃいけなくなりそうですけど、と言い、俺が、どこに何センチくらいのができてる?と聞くと、あの……詳しくは全部、診断結果として書きます、ドクターに直接聞いてください、あの、僕はこれで、と俺を見ながら、ドアを後ろ手で開けて、さっとドアを開けたまま行ってしました。



ちょ……


 俺まだ、パンツも履いてない。ドア開けたまま行くなよ……


俺は仕方ないから、診察台から降りて、電気つけた。


 最初から薄暗いから、怪しい雰囲気なんだよ。あかあかと灯った電灯。なんだよ、電気つけたら、普通の診察室じゃねーか。


 俺は、ジーパンのチャックあげながら、モニターを覗き込んだ。


 前、こんなのなかったな……これなんだ?


 俺は、数年前の検査を思い出した。あの時は痛みなどなかった。なんだかおかしいと血液検査したら、数値がおかしい。その時は、健康じゃないけど、まだ病気が出てないから、何が悪いのかわからないです、と言われた。


 俺はめちゃくちゃに勘がいいから、そういうことが多い。他の人が見てなんともないことも、俺にとったら「そこおかしいから、試しに開けて見てください。何か見つかるから」と、虫歯なんかはそういう感じで自分でおかしいのがすぐわかる。歯医者は「どうやったらこの程度の違いが自分でわかるんですか?」と言ったが、俺は「俺にはわかるんです」と。


 母さんが「あなたってゴキブリみたいに勘がいいものね」と笑った。俺の勘の良さというのは、昆虫のようなレベル。サバイバルするのに、特化した能力なんだと思う。


 前の検査技師は、こんなじゃなかったなあ。こんなにやらしい検査技師も珍しい。いや、本人は気づいてない。狼狽してる。俺、変な世界に住んでるなあ。まともだとお互い思い込んでるけど、俺たちみたいなタイプが出会っちゃうと、なんか世界がまともじゃなくなるもんな。


 俺は、ばったりこの検査技師と、外で出会わないことを祈った。家に帰って、シャツを脱いだら、べったりロールペーパーの切れ端が腹にくっついてた。


ぺりぺり剥がしながら、普通は、ハイ、これで拭いてください、とかもうちょっと時間の猶予与えるだろ、もっと機械的にやるだろ、と俺は、痒くなった腹をぽりぽりと掻いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る