第19話 検査

 薄暗い部屋の中に入る前に、握手してから入った。


電気つけないでいきなり検査に入るのか、と俺は思いながら、薄暗い中で服をまくった。


なんつーか、色白のイケメンで、どっちかって言うと、俺にタイプが似ている。



 ちょっと女性的って言うか、線が細い。


なんかお互いにこの状況は、密かに内心、狼狽がある。


腹部のエコーで、俺は「ひやっ!」と思わず女のような甲高い声をあげた。


我ながら変な声で赤面した。やめてくれよ……



 俺は、なんか知らないけど、似たようなタイプの検査技師と一緒にいると、お互いが変な気分に違いない気がして、狼狽しながら検査してる技師を見まいと目をつぶった。


あ……


ちょ、コイツいやらしい。


俺は、100パーセント狼狽した。こういう感じの奴って、いやほんとなんか、いやらしくないんだけど、いやらしいんだよ。


俺に似てて最悪。


仕事なんだから仕方ないです、と相手も狼狽してるのが本当に、お互い気まずい。


 ぬるぬるのジェリーが俺こんなに気持ちいいのは、まずい。腹部エコーってこんなにいやらしくないだろ、俺、何度も受けてるんだぞ。



そいつは、遠慮がちに「あの、すいません、もっとこっちに寄ってもらえませんか、あんまり離れてると、やりにくくて」と言った。


俺は仕方なくベッドの上でにじり寄る。


 そいつの白衣に俺の体が当たる。温かい。


「やりやすくなったです」


遠慮がちで、大人しそうな奴なんだけど、すごくいい人そうなのに、いやらしい。別に俺、それがどうとかいうつもりないけど、こういう相手はまずい。


無理やりとかそんなじゃなくて、その気にさせられそうな雰囲気がある。


これって、外で出会ってると、まずい相手。


 俺は時々そんな奴に出会うことがある。文学青年で、というような感じで、おとなしくて色が白い。伏し目がちで、家に来ませんか、みたいなこと言う。


 びっくりするくらい柔らかい手のひらに触れたのは偶然で、確か何かを手渡した時だ。俺、こいつはまずい、と思った。


 腹部のエコーが終わったら、いきなりバサっとハイいいです、と洋服にべったりジェルがついた。


 うわあ、あの、拭いてもいいですか?と俺が言うと、あ、すいません、と言って、こっちも見ないで、くるくると紙のロールペーパーをちぎって俺に渡す技師。



これで終わりかと思ったら、違った。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る