第18話 私生児※の俺の友人の話


 俺には夢があって、という話をした時に、俺の友人は「お前な、その夢を追うと、最期は野垂れ死にだぞ、いいのか?」と言った。


そいつは、俺は病院を継ぐんだ、と言って結局、医者になった。


 そいつはその時「俺、実は愛人の子なんだ」と言った。


俺は、へえ、と言って、「気にするな、よくあることだ」と言った。


 いいのか、俺にそんなこと言って、と内心思いながら。そいつはそれ以上何も言わなかった。多分だが、本妻の子と競い合ってる。


 そいつはかなりのイケメンで、遊ぼうぜ、と行くと、「ごめん、俺、競馬に忙しい。馬券売り場にいるから来いよ」と言った。


 俺はギャンブルには興味なしだから、「めんどくせーな、お前。じゃ、いいよ」と帰った。


 酒臭いような親父が集まるような場所は俺は嫌。


 まあそれはイメージだけで、実はものすごくオシャレになってるのかもしれないが、オシャレだってなんだって、俺の中で、賭け事に嵌るやつは病気だからな。治らないと感じてた。自分から、病気になりに行くのは嫌な俺は、また今度にしようぜ、とそれ以来、結局、奴に会ってない。それきりになってしまった。


 俺とあいつの出会いは、お化け屋敷だ。


 俺、実はダメなんだ、そういうの。文化祭のお化け屋敷なんて怖くないだろ、となんとなく入ったら、あまりに出来が良くて、俺は腰が抜けてしまった。


 俺、情けねーな。



で、大柄なヤツが入ってきて「お前、腰抜けてんのかよ」と、俺をつまみ上げ、外に連れ出してくれた。それが出会いだった。中学から上がってきた、一組のやつだった。



 あいつは日焼けしてて、地黒なのかもしれないが、野球部でキャッチャーやってて大人びてた。外国人みたいに彫りの深い顔してて、体格もいい。ものすごい親分肌だから、なんかあったら俺に言え、と言うようなやつで。


 俺は本当、自分で情けないと思ったが、まさか恐怖で腰が抜けるとは。


どんだけ怖いお化け屋敷だよ。なめてたよ。まさかだよ。


 で、そこからの付き合いで、卒業してから、そいつはオープンカーに乗ってたから、そのままドライブがてら、学校まで一緒に遊びに行った。


 そいつ、遊びすぎて何度も留年したみたいだ。その時は、まだ国試に合格してなかった。合格できないんじゃないか、とちょっと一瞬心配になったのは、あまりに競馬に嵌っていたからだ。競馬を中心に世界が回ってるぞ。


 それでもなんとか医者になって、それから、うちに電話してきたらしい。母さんが言ってた。


母さんが「ごめんなさいね、岬ね……」と近況を言ったら、あいつは「そうですか、行ってしまいましたか」と答えた。


俺は密かに、何度も苦しい局面で、あいつが言うことを思い出してた。


それから感謝してた。


 「お前、最期は野垂れ死ぬぞ、いいんだな」


俺は、それでもいいと思って、俺の道を行って、お前……。


どうも、お前の言ったこと、正しかったみたいだよ。


 俺は、後悔はないけど、そんなふうに言ってくれるのが昔の友達のいいところだな、と、いつも思ってきた。俺とあいつの思い出は少ないけど、やっぱり友達って、いいもんだよな、と思う。


 俺、やっぱお前の言うとおり野垂れ死にだよ。俺らしいよな。



注)〜※私生児という言葉には法律的に意味はない。

  非嫡出子、法律上の婚姻関係がない男女の間に生まれた子どもという意味。

  父親が認知しても法定相続分が嫡出子の2分の1という不利な立場にある。

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