第15話 医者のおじさんの話
こんな時、優秀な外科医だった叔父が生きてれば。
俺はいつもそんなふうに思った。叔父がいたせいで、父さんの弟は、余命をかなり長らえることができた。俺は叔父さんをすごく尊敬してた。うっかりしたら、父さんよりも尊敬している。
それは、叔父さんの性格が「よし、俺が助けてやる」というような、男気に溢れた人だったから。
うちの父さんもお山の大将だったが、どっちかっていうと、もうちょっと大人しく、どっちかというと地味な方だった。必ず引き分けに持っていくことができる信頼性、と父さんの同級生は、父さんのことをそう言った。うちの父さんは、俺と似て、黙っていればニコニコと人に好かれる。同級生は、父さんのことを、あいつあんなふうに見えて、案外と口を開けば、こっちが驚くようなことを言うからなあ、と言った。
当時の父さんの手帳には「あまり喋らないこと」と書いてあった。父さんにも自覚があったんだろう。
おじさんは僻地の医療、無医村地域で困っている人たちを助けたい、と、とある田舎の僻地から、呼ばれて大きな病院をそこに建てた。
俺は……おじさんのお葬式に出てない。
「岬、あなたは家で勉強してなさい、遠いし、来なくていいから」と母さんが言った。
俺は、そんなのおかしいだろ、と言わなかった。内心はそう思ってた。そんなのおかしいだろ。
母さんはいつも、そんなふうに俺に、過保護だったのかもしれない。
叔父さんが亡くなった原因は自殺だった。あの叔父さんが?
大きな病院を建てたのに、裏切られたんだと言っていた。小さな村に、もう一個、招聘しておいて、大きな病院が建つことになって。
村人の少ない、僻地の小さな村に大きな病院が二つも建つと、経営が無理だ。
当時、スキャンダルとして、三流週刊誌の小さな記事になった、と聞いた。俺は直感で、本当に自殺なのか?と思ったが、母さんは、家で受験勉強してなさい、と言って、この件から俺を遠ざけた。
うちの会社の建物の所々に、その痕跡はあった。たくさんの医者のレントゲン写真、カルテ、医療器具、引き上げてきたものが、そのままの状態で、俺はそれらを見て、いつか俺がちゃんと調べてやる、と思った。
でも俺は何も知らされなかったせいで、そんなこと、実際は調べようもない。闇から闇に葬り去られた。
俺の周りにはそういう変なことが一杯ある。俺は物事の「裏」も自然に感づくような、そういうセンサーを持ってるから。
母さんがいつも、「詮索はやめなさい」というふうに、俺からいつも真実を隠してきた。いろんな変なこと、俺はそれでも、本当に知らなかったこととか、他人から聞かされて驚くことがある。
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