第2話


 俺にも彼女ができた。

 ダム子のような美女ではないが、気のいい明るい子だ。

 わがままでもないし、一緒にいて苛つかないというか……。まぁ、それなりに好きだった。

 そうだな、平凡であまり覚えていないから、とりあえずボン子とでもしておこうか。


 俺とボン子は中々いい感じだった。

 でも、俺はダム子とも友だち以上恋人未満の友情を保っていた。


 相変わらずダム子は、雑誌の星占いを手放さない。

 なんだか最近、調子がでないから憂さ晴らしに、と言って行く場所は、カラオケでも居酒屋でもなく、水晶占いの館なのだ。

 そういえば、その頃からダム子はラッキーアイテムなるものをたくさん身に付けるようになった。ダム子の奇抜さに見慣れた俺の目から見ても、ちょっとやり過ぎだろ? と思うくらい。

 さすがに、得体の知れない骨を首からぶら下げてきたときには、犬じゃあるまいし……と、文句を言った。


「乳白色のものは恋のおまじないになるのよ」


 大まじめな顔で、ダム子は言った。

 俺はあきれて物が言えなくなった。


 その奇妙な行いの数々から、ダム子の彼氏は逃げ出して、今は三人目の男である。

 はっきり言いたいが、乳白色の骨は男を引きつけない。

 間違いなく去られる要因の一つだ。

 だが、ダム子は、失恋なんてあまりショックではないようだ。所詮は好きで選んでいるのではなく、彼女のポリシーにより、占いで選んでいる相手だからだろう。


「野田君、骨の力を信じていないの?」

「ああ、信じないね!」


 ふーんとダム子は空を向く。


「でも、貝パールなら信じるわよね?」

「貝パールだって信じるわけないだろ!」

「でも、ボン子は貝パールを持っているわよ。私が恋のお守りになるって、アドバイスしたから。その効果が今の結果なの。どう? 信じる気になった?」

「……」


 絶句。


 確かに、今の彼女とは、いつの間にやらなんとなくのつきあいだが、それが貝パールに俺が屈したせいだなんて、信じられるか? 

 俺は占いやおまじないなどで、左右なんかされたくはない。



 骨だけはやめてくれ……と願いを込めて、俺はダム子の誕生日にムーン・ストーンのネックレスを贈った。

 その乳白色の石をなぞりなから、ダム子はにこにこしている。

 喜んでくれるなんて、かわいいところもあるよな……と思ったのは一瞬である。


「今度の彼はね。今までの人に比べると、ちょっと算名学的に問題があるけれど、手相で見てもらうとまずまずなのよ」


 本当に腹がたつ。

 俺のプレゼントがダム子の恋の成就の力になんてなるはずがないだろう?

 俺は、その相手とも三ヶ月の仲と見た。だが、ダム子は大まじめな顔をした。


「今年こそ、一生のパートナーと出会えるって、タロット占いで出ているのよ」

「その男、気の毒……」

「あら、失礼ね! 私にはあしたが見えるのよ。人生踏み外すことなく歩ませてあげるわ。きっと、彼は最大の幸福を掴むの。これ、私の予言」


 のすとらダム子の大予言。

 はたして当たるものなのやら……。


 だが、少なくても、ダム子に振り回される俺は不幸だ。最大に不幸だ。

 俺は、絶対に予言も占いも信じない。


 ダム子に誕生日プレゼントを贈ったことがばれて、ボン子に一週間も口を聞いてもらえなかった。

 しかも、今度ボン子の誕生日には、指輪をプレゼントする約束をさせられた。またもや、土方作業のバイトが待っている。


 ダム子こそ、俺の諸悪の根源。

 もしも神社でお祓いをして、祓えるものなら、ダム子を祓いたい。


 ぶつぶつ文句を言いながらも、俺は何かあると頼ってくるダム子を切れないでいる。理由はわからないけれど、なぜか放っておけなかった。

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