のすとらダム子の大予言
わたなべ りえ
第1話
俺がこれからする話は、とあるヘンな女のことだ。
ちゃんとした名前があるのだが、本人曰く、名を知られることは支配されること、すなわち名は呪なり……なんて言うから、仮名にさせてもらう。まぁ、のすとらダム子とでもしておこうか? なぜ、のすとらダム子かというと……いろいろあって。でも、説明するまでもなく、この話を聞いたらなるほど! と思ってくれると思う。
俺と彼女が出会ったのは、大学一年の時。学食で俺が見初めた。
つい惚れてしまうほど、ダム子はなかなかいい女なのだ。
はやりのタイプとは言えないけれど、くるりと巻いた長い髪を白くて細い指でかきあげる、どこかミステリアスな雰囲気が漂った美女だった。
英語のクラスとたまたま入った漫画サークルが一緒だったことは、俺にとって幸運、いや、あとから思えば人生最大の不幸だったかもしれない。
がんばったかいあって、トントン拍子に友だちに発展、次は告白して恋人……になるはずだった。
が、俺の必死の告白に、ダム子はあっさりと。
「私も野田君のこと、とても気になっていて、そろそろ告白してくる頃だとは思っていたのですけれど、今日は日が悪いのです」
見上げると、確かにその日はどんよりとした梅雨空だったが。
「天気が悪くても、俺は悪くないぞ!」
「そうではなくて、昨日だったらまだ許容範囲内だったのですけれど」
ダム子はそう言いながら、読みかけの雑誌を俺の鼻先に突き出したのだ。
「残念ですわ。本日の星占いで、『告白してくる相手に要注意』とありますの」
つまり、俺は雑誌にのっていた星占いの結果のために、ふられてしまったのだ。
ダム子はいつも占いや予言などを基本にして生きている女だった。
どこか出かけるにしても、やれ、今日はテレビの血液型占いが最悪だからやめるとか、でも雑誌の星占いでは良かったから、やっぱり出かけるとか、ころころ態度が変わってしまう。よくもそのわがままに耐えられるものだと思う。
そりゃあ女は占いが大好きだ。だが、占いで恋の行方まで定められてしまっていいものなのだろうか? つくづく疑問に思う。
俺をふった一週間後、ダム子は、どう見てもつまらなさそうな男とつきあいだした。何でも、出会いの場が雨上がりで虹が出ていて、しかもその日のラッキーカラーの紫を彼が着ていたというのだ。
あまりのばかばかしさに、俺はダム子を捕まえて抗議した。
「紫の服なんて着るヤツ、絶対に普通じゃねぇ!」
「ええ、特別な人なのですわ」
ダム子曰く、それは運命の人を天が指し示した現れなのだと。
俺はもちろん傷ついた。だが、すっきりもした。ダム子はヘンな女だ。あんな女とつきあっていたら、きっと振り回されてしまうと。
しかし、ダム子の呪縛は、俺を解き放ったわけではなかった。ダム子と俺は、友だち以上恋人未満の、いわば女に都合のいい立場に変わっていたのだ。
夏の暑い日に突然引っ越すと言い出し、担ぎだされる。
学校へ通うのに方向が悪いと風水で出たらしい。すっかり土方焼けした俺の横で、がんばってね、なんて声をかけながらオレンジジュースを飲んでいる。その日のラッキーアイテムはオレンジだそうだ。
こんなバカな女に惚れた俺こそバカだ! と思いつつ、ダム子の涼しげにアップにされた髪とうなじにドキッとしている。ほのかなお色気が、わがままなお願いを聞いてしまう要因でもあった。
きりりとねじりハチマキを締め直す。
「おまえ、彼氏できたんだろ! そいつはどうしたんだよ」
「あら、だって今日は引っ越しに最適ですけれど、恋愛運が最悪ですの。血液型でも星占いでも姓名判断でも最高の相性の彼とけんか別れしたくありませんもの」
涼しい顔でダム子は言う。
俺は、やっと居間にテレビを運び終えたところで汗だくだ。
「占いですべてを決めるのかよ、おまえは!」
「あら、それ以外に何であしたを計りますの? 私は誰よりも幸せになりたいだけですわ」
確かに俺の恋愛運は最悪である。ダム子のヤツは、俺を恋愛対象にしていない。
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