守護天使(4)
背負った武器に、マークワンの腕が届かない。
設計ミスという言葉が稀人の脳裏をよぎる。あれだけ削ってなお、まだ可動に干渉する箇所があったのか。
この世界はどれだけ、稀人の美意識を阻むのか?
「ふざけているのか!」
嘲笑と共に、伸ばされてきたイオフィエルの手がモニターを塞いだ。
頭部を鷲掴みにされるマークワン。
アルムヌスは盾にするようにマークワンを振り回す。
「これでは攻撃できん……!」
辰刀の悔しげな声。
「足になるマシンをいただくつもりだったが、もう1機奪えそうだな?」
「こいつ、マークワンまで持っていく気か!」
それは嫌だと稀人は思う。
何故って、あの完璧な造型のイオフィエルをデザインした人間に、自分が中途半端にデザインしたマークワンを見られるということではないか。
きっと鼻で笑われる。それはつらい。
「駄目だ……! 持っていくならせめて完璧に仕上げてから持って行ってくれ!」
「何言ってるのお兄ちゃん!?」
そうだ、と稀人の脳裏に天啓が閃いたのは、その時だった。
「聞こえるか、アルムヌス! 話がしたい!」
「何をしようというんだ、稀人!?」
「また勝手しようってのか、稀兄!?」
「何言ってるんだ、言葉が通じるなら、話し合いができる道理だろう?」
言葉が通じる相手が出てきたのは、むしろ好機と稀人は思う。
相手を説得できる可能性はゼロとは言い切れまい。
少なくともやってみる価値はあるはずだ。
血を流さずに解決できるなら、それが1番なのだから。
駄目で元々だ。上手くいけばそれでよし。
父の顔に泥を塗ってやれるし、兄弟達を戦いから解放してやれる――。
「ん? 命乞いなら聞かんぞ、カオスへイム
「そう言わないでください、ミスター・アルムヌス。あんた達が何者で、何のために俺達と戦うのか、教えてくれてもいいでしょう?」
「知ってどうする」
「戦わなくても問題を解決する道を模索することができるかもしれない!」
「…………」
アルムヌスからの返答はない。思案しているのか、それとも。
「俺は本当に話がしたいだけです。その証拠を、見せる!」
稀人はネネコを振り返った。
「これから外に出る。何があってもアルムヌスに攻撃しないでくれよ」
「……ワタシは、衛戸家のメイドです。旦那様がやめろと御仰れば、稀人御坊ちゃまの御意向に反する御行動を御採択しないわけには参りません」
「ネネコは俺のわがままをよく聞いてくれたよな。門限を破ったときに居間の時計をずらしてくれたの、感謝してる」
稀人はマークワンの肩の上に己を転送する。
マークワンを中継する形でアルムヌスとの通話回線を維持。
「どうした――エデンゲイターには、誠意に応えるという概念がないのか! 有無を言わさず
「――いいだろう」
イオフィエルの顔の前に、何者かが転送されてきた。
(あれが、アルムヌス……。エデンゲイター人……)
美男子と言っていいだろう。いや年齢的に美少年と形容するべきか。
「知っているぞ。カオスへイムでは、顔をつきあわせて喋るのが礼儀なのだったな?」
きめ細やかな肌、整った鼻筋、柳葉のような眉、強い意志を感じさせる瞳。
地球人であればさぞかしモテたことだろう。
青い肌、金色の瞳、緑色の髪、こめかみから生える山羊の角、そして背中の翼がなければ、の話であろうが。
「……カオスへイム? 地球のことか……。日本語といい、随分とこっちの文化に詳しいな」
「戦いを仕掛けるのに、敵のことを調べないなどということがありえるか?」
「ごもっとも。それじゃあ教えてくれますか? 何故地球、いや、カオスへイムに侵攻してきたのです? あんなゴミためみたいな惑星のどこに、侵略するだけの値打ちがあるっていうんだ?」
「随分と母星のことを口汚く罵るものよな。美しい星だと思うが。まあ、それは侵攻の理由でも目的でもない。我々は汝等を滅ぼすために、ここに来た」
「俺達を……滅ぼす? 人類がいったい何をした!?」
「エレクプローラーとかいったか、今この瞬間も我々の世界への入口を探し続けているのだろう?」
「…………」
「汝等のコンピュータ・ネットワークが我等が世界、エンピレオヘイムに
エンピレオへイムというのが、エデンレイヤの向こうでの呼び名らしい。
「あんた達にとって俺達人類は、不正アクセスしてきたハッカーというわけか。あんた達のWi-Fiにタダ乗りしたのは悪かったけど、殺しに来ることはないだろう?」
「あるな。エンピレオヘイムは選ばれた民にのみ開かれる、神聖なる場所なのだ」
「選民思想ってのはエデンゲイターにもあるんだな……。あんた達がそんなに立派な生き物かい」
「いや、我等は選ばれた民にあらず。エンピレオヘイムを保守・管理するセキュリティに過ぎぬ。そしてセキュリティとしては、資格なき者に約束の地を踏み荒らされたなど言語道断、面目丸潰れ……! この恥辱は、汝等の血をもってのみ、
アルムヌスは心底悔しくてたまらないという顔をした。
「俺達人類が、その選ばれた民では駄目なのですか?」
「駄目だ」
相手の返答はにべもなかった。
そうまで言われてしまう理由はわかる。
「まあそうだろうな、わかるよ。人類なんて、人口過密のくせにいつまで経っても地球にしがみついて、あっぷあっぷしてるくだらない生き物だもんな……。それで、やれ宗教だ政治思想だって、同族同士でいがみ合って、挙句の果てには殺し合うような、救いようのない愚かな種族なんだし……」
「……いや、待て。そこまで言うことはない」
「は?」
「そう
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます