夏の煌めき【10.偶然の再会】

 翌日の午後。華琉人はるとは一人浜辺にいた。無意識とは言え、合宿の休憩時間に浜辺を散歩するのが日課になっていた。ツキミさんに会えるかな? という淡い期待を胸に出掛けるも、ここ2日空振り続きだった。昨日ニアミスしたのだから今日こそ……。

 半端な曇り空は泣き出しそうだったが、彼は気にしていなかった。

 ……結局今日もダメだったか。これじゃ明日も会えずじまいか、ちぇっ!……

喉の乾きを覚えた彼は、昨日花火を買ったコンビニへ寄ることにした。

 コンビニが見える距離に来た時、彼の顔に水滴がポタッと1滴当たった。泣き出しそうだった空が遂に泣き始めたようだ。

 彼は急いでコンビニに駆け込んだ。途端に雨音が強くなる。幼い頃から雨は嫌いだった。湿気にやられてただでさえクルクルの天パーがもっとクシャクシャになって目も当てられないことになってしまうからだ。

 ……こりゃ雨上がるまで帰れねぇな……。既にクセのつき始めた襟足を気にしながら出入り口の方を振り返った瞬間、濡れ鼠になった誰かと目が合った。

「あ。どうも」何の巡り合わせか相手はツキミだった。

「あ。どうも。奇遇ですね。どうしたんですか」

「リナが……あ。この間パレオ着てた……あの子が突然食あたりになってしまって……」

「ああ、そりゃ大変だ。あ、それならね……」そう言うと華琉人は真っ直ぐ飲料の棚に向かいスポーツドリンクを手にした。

「これ、お勧めだよ」


 「すいません買い物を手伝ってもらっちゃって」

「いいんですよ。別にこれくらい」

 雨上がりの道を華琉人とツキミは歩いていた。通り雨が過ぎて行った空にははかったかのように虹が出ていた。

 この短時間で華琉人はツキミについてだいぶ情報を手に入れることができた。

ツキミの本名は漢字で「次希満」と書くこと。

五星いつぼし市の西隣の銀漢ぎんかん市に住んでいて、夢野井ゆめのい学園大学に通う2年生で20歳であること。

この町に来たのはサークルの合宿のため、などだ。

「そうだ。何かお礼させて下さい、光野ひかりの君。えーと……」

「じゃあツキミさん、明日の花火大会一緒に観に行きませんか? その……花火デート、というわけじゃないけれど」

「あぁ。よかった。リナの食あたりで花火見物は中止、みたいな空気になってたから。あたし、どうしても行きたかったんです」

「明日の夜、さっきのコンビニの前で会いませんか」

「えぇ。じゃあ」とツキミは夏虹とは反対の方角の浜辺沿いの道へ曲がって行こうとした。

「ツキミさん、明日の夜!」華琉人はそう叫ぶと下の浜に降りる階段を勢いよく駆け下りて行った。

「やった! やったぞ! フェッフェ~イ‼」

 華琉人はテンション高く夏虹へと駆け戻って行った。

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