夏の煌めき【9:真王(なお)兄さんの恋愛相談】
「ねぇ、兄さん。
「あぁっ? 前に話したろうが。たまたまだよ。たまたま」
「そんなこと言わないで教えて下さいよ、兄さんの
「俺も知りたい」
「……なんてこたねぇよ。
「カッコ良いじゃないですか。正義の味方」とチキン。
「お前ら知ってたか?
真王の言葉に、お茶を
「おい。大丈夫か、みどりん?」
「あ……はい。兄さん。何とか。ちょっと風に当たってきます」
緑山はバルコニーに出るなり盛大にゲホゲホやり始めた。
「んなとこでリバースすんなよ!」真王はバルコニーに出る窓をぴしゃりと閉めた。
「今の話、本当です?」チキンが尋ねた。
「忘れたとは言わせねぇぞ。中1の時の
「えっ⁉ そんな時から……」
その時、誰かが部屋のドアをノックするコンコンという乾いた音がした。
「誰だ~? こっちは揃って在室中だぞ~」真王は戸口へ向かった。
「あ。俺。華琉。みどりん、キョーちゃんがお呼びだぞ!」ドア越しに
「どうした、華琉。」ドアを開けるなり真王は尋ねた。
「キョーちゃんが物理の宿題の範囲がどこだか分かんねぇって」と華琉。
「聞いてたか、みどりん?」
「まだ外でゲホゲホやってます」とチキン。
「キョーちゃんに宿題教えてこいって言っとけ!」
「だそうです!」と窓を開けてチキンはみどりんに事の次第を伝えた。
「お前、それだけじゃねぇだろ? どうした。」
「あぁ。そうそう。ここの化学式、どうなってんの?」
「これしきユッスーか聖に聞きゃ早いだろうよ」
「それが、ユッスーはバカ殿相手に虚数解の入った式がどうだこうだって教えてるし、聖は聖で
「つまり訊けるやつが他にいねぇってことだな。……まぁ入れ」
「すんません兄さん、ちょっと行ってきます」
みどりんと入れ替わる形で華琉は室内に入った。
「さて」ドアがバタンと閉まったのを確認してから真王は言った。
「恋の悩みがあんならこの真王兄ちゃんに言ってみな」
「え? ピカリンに問題の解き方教えるんじゃ?」チキンが訊き返す。
「ああ。見せてもらったけど、こいつの解けねぇような代物じゃなかったよ。フェイクだよ、フェイク。たぶん、自分らの部屋出るための……」
「ええ? じゃあ、先生とか聖の話……そもそもキョーちゃんの話は?」
「それは運良く偶然が積み重なっただけだろう」
「……あ。じゃあ、僕もいるとお邪魔になるだろうから……」
「まぁ待て
申し訳なさそうに部屋の隅に座ろうとするチキンに「もっとこっち来い」と手招きして真王は言った。
「お前らに共通すること……誰かに惚れたな」
揃ってギクリと身動きする華琉人とチキン。
「華琉人は聞かなくても分かってる。初日に浜で会ったフジノとかって水着美女だろ」
ズバリ言い当てられた華琉人は頷くしかない。
「実は俺、今日その人をコンビニで見たんだ」
「えっ⁈ 俺、全然……」
「だろうな。俺たちが花火を品定めてる最中に会計済まして出て行った」
「何で教えてくれなかったんだよ」
「教えた所でどうしたってんだよ」
「そ……それは……」
「だけど華琉、耳寄り情報だ。例のフジノって女、あさっての花火大会は観に行くらしい。」
「本当か?」
「あぁ。連れの女……たぶん浜で会った時にパレオだった人だと思う、とそんな話をしてた。」
「そうか。ありがと真王!」
そう言うと華琉人は足取りも軽く真王たちの部屋から出て行った。
「……で、お前は誰だ? 蜜柑坊」
「僕ですか⁉ ……
「お前、一夏の恋で終わらせるつもりか?」
「それは嫌ですよ!」チキンは言った。「だって、僕の初恋なんですから」
「だったら、いっそのこと、あと4日のうちにコクっちまえ」
「ええっ⁉ ムリですよ! そんな……。だって僕……」
「何だよ?」
「僕、兄さんじゃないですから」
「あはははははははは」真王は笑い出した。
「お前心配し過ぎだよ。その辺のコツは賢木原か華琉にでも聞いてこい」
「あ。はい」そう言ってなぜかチキンは部屋から出て行ってしまった。
一人きりになった真王は、あれ? 華琉のやつ、シリウスに“今年1年恋はしない”って泣いて誓わなかったか? と思ったが、人の恋路を邪魔すると馬に蹴られて死にかねないとも思い、口出ししないことに決めた。
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