夏の煌めき【8.浜辺の花火会】

 その夜。浜辺では、買い出し組が買ってきたコンビニの花火セットをネタに、真王なお主催のささやかな花火の会が行われていた。

 真王は線香花火を見つめながら枕草子の一節を思い返していた。

夏は夜。月の頃はさらなり。__そうだよね。夏の夜の月はいいよね。

やみもなほ、蛍の多く飛びちがひたる。__闇の中を蛍が飛ぶ情景って見たことないや。

また、ただ一つ二つなどほのかにうち光りて行くもをかし__そんな景色見てみたいな。

雨など降るもをかし。__この雨はしとしと降るんだろうな。現代みたくゲリラ雷雨でドザーッと降るんじゃなくて。......おそらく、そんな雨は凄まじきもの、なんだろうけれど。

 などと真王が思ったタイミングで線香花火の玉が燃え尽き、手元が暗くなった。

燃え殻をバケツに放り込むと真王は海を見つめた。

 昼の海の青さと夜の海の蒼さは全くの別物だ。昼の青さは空が映し出されたもので、夜の蒼さは闇の溶け込んだものだ。言わば光と闇……。

 「それにしても海にアロマキャンドルの合わなさ加減パないよね」

「そうこの甘ったるい匂いが何とも……ね」

「お前ら風情も何もあったもんじゃねぇな‼」真王はツッコんだ。「ぐじゃぐじゃ言うな! クロシーと礼子れいこさんに頼んだら、それしか集まらなかったんだよ! コンビニで売ってた仏事用ロウソクでもいいってんなら別だけどな」

「え~」

「リアカー無きk村。貸そうとするもくれない馬力。リチウム!」

「赤!」

誰かが炎色反応のゴロ合わせを唱え出した。

 真王はおいおいという顔をしてから花火の山から1本抜き出そうとした。が……。

「おい、昼用の袋花火が入ってんぞ」

「今上げようぜ。何発ある?」とあきら

「4発」真王は返した。

「じゃあ、ユッスーとチキンに拾わせる?」聖は言った。

「今、俺、ムリ!」ユッスーは両腕でバッテンを作った。「ネズミ花火3つに追われてる‼」

「まぁ、じっくり遊ぼうよ。たぶんこの夏の花火って、これくらいだろうし」ながるはそう言うとススキ花火を1本手に取った。

「いや。礼子さんに聞いたら、明後日にこの町の夏祭りのイベントの1つとして花火大会があるってことだ」真王はとっておき情報を話した。

 夏祭りの花火大会と聞いて皆が注意を払ったため、花火の散るパチパチという音が聞こえてきた。

「そこで提案だ。夏祭りに行きたくない者は返事をしろ!」

聞こえてくるのは、花火の爆ぜる音と波の音だけだった。

「よし。全会一致だな?」と真王。「とにかく花火消費して帰るぞ」

 砂浜に踊る色とりどりの火の粉は彼らの個性を反映しているように見える。

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