夏の煌めき【3.クロシーのはとこ】

 そうこうしている間に一同の前に1台のきな粉色のバスが停まった。車体には白文字

で“民宿 夏虹かこう”と綴られている。

 最前列の窓が開いてクロシーこと黒島勇くろしまゆうきが顔を出した。

「皆さん乗って!」そう言うとクロシーは席を立った。代わりに席に着いたのは、一同と同年齢くらいのクロシーにどことなく面差しの似た少女だった。

 乗降口が開くのが合図だったかのように、一同はバスに乗り込んだ。

「なぁ、クロシー。その、誰?」

「まさか彼女?」と、矢継ぎ早に質問が飛ぶ。

 男子たちの関心事は、クロシーが連れてきた謎の少女の正体であるようだ。

「違う。違うって! 彼女は黒島礼子れいこちゃん。俺のタメのはとこ。」クロシーは大慌てで言う。

「はぁー。お前の親戚。道理で顔立ちがちょっと似てるわけだ。」納得できたというようにさやかが言う。

「皆乗ったぞ、クロシー。あとはシートベルト締めりゃ発車できるぞ!」と真王なお

チラリと耳元に見えたのは……。

「何でイヤホンコード?」雛多ひなたが質問する。

「あ。こいつ、自分がチャリンコで出せる速度以上で走る乗り物に乗ると一撃で乗り物酔いするから……」

「おい華琉! それ以上言うとあとでしめるからな!」真王はシートベルトを締めた。カチャンという音が挑発的に車内に響く。

「うわ……うわうわうわ……。真王さん、すいません。もう言いません。あとで小生しょうせいのことは煮るなり焼くなりして下さい‼」そう言うと華琉人はるとはいわゆる番長席に座り、シートベルトを締めた。

「うひゃひゃひゃひゃ。何か表番VS裏番のリアル抗争劇みたいだったね」

「うるせっ!」華琉人はあきらの頭をはたこうとしたが、バスが揺れ、右斜め前の席の背に思い切り手をぶつけることになった。

「ちょ……ピカリン何なんすか⁈」座席の背を叩かれたはじめは迷惑そうに言った。

「お前ら、バスが動き出したんだからシートベルトして大人しく座ってろって。小学生か!」振り向いた体勢でユッスーがツッコんだ。

 すると、車内にガチャガチャと慌ただしい音が響くことになった。

「あの、晶司しょうじさん。さっきの話、本当ですか?」通路を挟んで隣に座っているあやめが尋ねてきた。

「うん本当。小5の時の野外学習キャンプで、22時の消灯から何やかんやで翌朝5時まで枕投げをやって……、あ。6時起床だったんだけどね」

「え……。1時間しか寝なかったんですか?」

「そう。まさかの1時間睡眠。それでバスに乗ったら案の定真王ったらリバースしちゃって……」

「あぁ。あったね、そんな事件も。で、後日聖を筆頭に枕投げに参戦したクラスの男子全員で土下座したっていう……」ながるの一言に、車内前部に座っている女子チームからクスクスと笑いが起こる。

「えっ、そこ、笑うとこ?」番長席から身を乗り出して華琉が訊いたが、誰も答えなかった。

「何だよっ‼」華琉がシャウトすると車内は笑いの渦に包まれた。

 夏空は青く澄んで白い雲と絶妙のコントラストを織り成している。

 高速道路を海沿いへとひた走るバスの後ろ姿は、車内の様子が反映されているのか、どこか楽しげに見える。

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