夏の煌めき【2.アイスクリームと予想外の展開】

 そこへ「出た、怪人マンダリン男!」

「あれ? 思った以上に来てないな」という2人分の声がした。

 現れ出たのは紫村響しむらひびき緑山夏也みどりやまなつやという意外な2人連れコンビだった。

「怪人マンダリン男言うな、バカ殿!」知稀かずきが叫ぶ。

「じゃあ合宿の間中、僕のことバカ殿って呼ぶなよ」

「う……、それは無理」

「まぁまぁお2人さん。ここはアイスでも食べて和解しましょう。ね?」と緑山が間に入る。

「みどりん、こんな時にアイス買ってきたのかよ」珍しくあきらがツッコむ。

「買ってくるならもっと大勢が集まってからにしようぜ。こんな少人数じゃなくて」

「俺らもまだ3分の1しか集まってないなんて思ってねぇよ」

「そうそう。ねぇさんを含めた女子チームが全員いると思ってたから買ってきたわけで……」と紫村と緑山は焦り気味に言った。

「そもそも何でアイス買ったんだよ」真王なおが指摘する。

「俺ら爽勇会そうゆうかい男子メン、先生のおかげで地味に成績向上してるんです。だから、みんなで割り勘でアイスおごって、なんなら他の人にも、って」と緑山。

「ふ~、さすがユッスー」と聖。

「お前、よいしょしたって何も出ねぇかんな!」とユッスー。

「とにかく、あるんならアイス食っちまおうぜ。溶けるぞ」

「あぁ…そうっすね。あ。先生。これどうぞ。ほんの心ばかりのものですけど」緑山はユッスーにカップアイスを差し出した。

「え……スイートマウンテンじゃん。しかも俺の好きなクッキーバニラ味。コンビニで買ったら高かったんじゃない?」

「いやいやそんなことは」

「そう。ありがとう」ユッスーは緑山からカップアイスとスプーンを受け取ったが、いかにも恐る恐るという感じだった。

「あれ? 先生、何ビビってるんです?」と紫村。

「こいつ、さっき自販機でゴキブリ出しやがった。チキンと一緒に」かいちゃんが言った。

「え?」紫村と緑山は、チキンこと知稀に目をやった。

見られた知稀は「マジ。マジ。あそこの自販機コーナーの紙コップのやつ。紙コップが真っ黒になるくらいびっしり。」と言った

途端にユッスーがむせ出す。

「おい、蜜柑坊みかんぼう! クッキーバニラ味のアイス食ってるやつがいるのにゴキブリ、ゴキブリって大声で言うな、バカ‼」真王がツッコむ。

「え……ゴキブリなんて一言も……」」蜜柑坊ことチキンこと知稀は冤罪だ! という顔をした。

「どのみち同じだ」バッサリ切り捨てる真王。

「そうだ。他の分まであるならアイスくれよ」魁ちゃんが言った。

「お前よっぽど食いたいな」呆れ気味に緑山が言う。「はいはい……。ほら、オープストザフトアイス。何でもいいから好きな味1本持ってけ」

「よっしゃ! あんがとみどりん。おい、チキン! 還元セールだ! 1本食え!」

「何味がある?」と知稀。

「りんごとぶどうとオレンジにピンクの……何だこれ?」と魁。

「ピンクグレープフルーツ味、だってよ」アイスバーの箱を見分していた緑山が答えた。

「……だとよ。」

「あ。じゃあ、僕りんごで。兄さんも食べてくださいよ。あ。聖も」

「まさか静垣しずがき若狭わかさだけにアイスバー食わせるわけじゃないよな、チキン」と女声の割り込みが入った。

「え……姐さん、そんなわけないじゃないですか。あ……、女子チームの皆さんもアイス食べます?」

 狙ったように女子チームと賢木原爽さかきばらさやか安音寺菖あんのんじあやめがやって来た。

「皆さんお揃いですか?」と菖が尋ねる。

「いや、ながる華琉はる、ベルギー、キョーちゃんが来てない」と真王。

「あ~、また珍しい四人組カルテットだな」と爽。

「でも誰も見てねぇよ」

他の女子からも「見てない」という声が上がる。

「あぁっ⁇ あいつらどこ行ったんだよ。仕方ねぇなぁ、もうっ‼」と真王はケータイのキーを叩き始めた。

「まだいないのが桜桃ゆすらうめだったら分かるけどな」爽が言う。

「あぁ。寝坊した、とかでね」聖が返す。

「うるせぇ! 俺だって……」『ちゃんとしてるんだよ!』と続けようとしたところで、誰かのケータイが軽快なメロディーと共に着信を告げた。

「おい、誰か、ケータイ鳴ってんぞ!」ユッスーが叫ぶ。

「あ。あたし! もしもし?」爽が通話を始めた。

「あ。クロシー? せぇよ。……あたしらはいいけど、流、光野ひかりの赤音あかねちゃん、キョーちゃんが来てな……はぁっ? そっちにいる? ……うるせぇよ! ……で、今どこに? ……前? 前ったってお前、何も……。……あ。分かった。OK。見えたよ。」とケータイを畳んで爽は通話を終えた。

「どうした賢木原?」真王が尋ねた。

「あれ。見える?」爽は前方を指差す。

 前方に当たるロータリー前の交差点の奥の方にきな粉色のバスが見えた。

「ひょっとしてあれか?」と真王。

「あぁ」爽は答えるとアイスをかじっている一同に言った。「アイス食べ終わってないヤツ、今のうちに食べ切った方がいいぞ。もうバスが来る」

「まだもらってない人は?」アイスを配っていた魁ちゃんが尋ねる。

「バスの中に持ち越せ!」と真王。

「あ。包装とか棒とかどうしよう」

「ほら、みどりん、これ使え!」真王は折り畳まれたビニール袋を差し出した。

「どうせいるだろうと思ってビニール袋やら輪ゴムやらを多めに持ってきたから」

「ありがとうございます。兄さん。アイス食べ終わった人、ゴミはこの袋に入れて……」

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