夏の煌めき【1.自販機の事件】
梢には無数の青葉が繁り、そこへ強い夏の日差しが照り付け、エメラルドの天然石を想い起こすような爽やかな翠色にきらめいている。
またしても乾いた熱風がどうっと吹き付け、梢の青葉がザワザワと音を立てた。
その音に混じる聞き慣れた少し癖のある笑い声に真王は気が付いた。辺りを見回すと駅舎のほうに人影が4つあった。
真王は笑い声の主を既に特定していた。あんな笑い方をするのは
「お~い、聖!」真王は人影に向かって呼びかけた。
すると、4つのうちの1つが猛烈な勢いでこちらに向かって走って来た。あとの3人分の人影も慌てて追いかける。先に駆け出した人物は途中で帽子が脱げてもお構いなしだ。
「おはよう! 真王!」走って来たのはやはり
「お前どんだけ大声で笑ってんだ、バカ! うるせぇよ!」真王が言う。
「えええ~っ、だってぇ......」聖が何か言おうとしたタイミングで、「聖、お前、帽子を吹っ飛ばしたことも気づかずにドンドン先に行くなって!」と真王のよく知った声がした。
「あ。ユッスー、ごめんごめん」聖は声のした方を振り返った。
そこには、ユッスーこと
「お前が『ごめん』って連呼すると、すげー軽く聞こえるけど......。まぁいいや。ほら」ユッスーは聖に黒いキャップを返した。
「ユッスー、ちょうどいい所に来た。こいつのバカ笑いの理由を教えてくれ」真王はユッスーに言った。
「ちょっといろいろありましてぇ……」とユッスー。
「それって、お前らが駅舎から出てきたのと何か関係あんのか?」
「関係大有り。簡単に言うとね、……」ユッスーが話し出す瞬間を狙ったかのように
「
「聖! 俺をポーターにするとは何様だ!」という2つの声がした。
「あれ? 珍しいな。
やって来た二人連れ__
知稀はいつものように派手なオレンジ色のTシャツを着ていた。魁はどういうわけだかボストンバッグを2個持ちしていた。
「あ。魁ちゃん、ごめん。本当ごめん。ごめんごめんごめん」懲りもせず聖は「ごめん」を連呼した。
「うっせ! お前がそうやって『ごめん』つっても何の重みもねぇよ! ……ったく、駅長室にカバン忘れそうになりやがって‼ 俺が気づいたから良かったものの、誰も気付かなかったらどうするつもりだった‼」魁は片方のバッグを押しつけるように聖に渡した。
「駅長室って、お前ら一体何やらかしたんだ?」いぶかしむように真王は4人に訊いた。
「何でやらかした前提なわけぇ?」聖が言った。「違うよ」
「そうですって。今回はですねぇ……」と説明し出した知稀の話を要約すると次のようなことであった。
駅前広場の西端の自販機コーナーの前で、先生(=ユッスー)と聖、自分(=知稀)
と魁ちゃんの2組は合流した。
ついでに、と自販機でジュースを買ったら、紙コップタイプで買った先生と自分に“ゴキブリ付き“というまさかの大当たりが出たのだと言う。
「はぁっ⁈ そんなことってあるのかよ?」真王が訊き返す。
「いや、マジ。マジ。氷と一緒に紙コップに茶色いのが1個ポロッと浮かんでるとこ見てみろ。ビビっから」とユッスー。
「そうですよ。紙コップが真っ黒になるくらい小さいのがびっしりくっついてるのも相当鳥肌ですよ」知稀も続けて言った。「それでですね……」
皆で慌てて、管理者連絡先シールを探したのだが、誰かが
「お前ら揃って
「ゴクローサンって、ひどくね?」とユッスー。
「そうだよ。せっかく俺が普通の自販機で正真正銘の当たりを出したのに。こいつらが大当たり出すから
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