チキン・オレンジの【3:予感的中!!】

「え、のぞむちゃん、今なんて言った?」

「だから、さっき、きょーへー兄ちゃんがやってきて、『かず兄ちゃんとなつや兄ちゃんが来たら、すぐに学校に帰ってきてくれ』って」

 ながるたち3人は便利屋『さかき』の店先で、さやかの小学2年の弟・臨から、青野恭平あおのきょうへいの伝言を聞かされていた。

「すぐに学校に戻れ、って何かあったな」みどりんは呟いた。

「でしょうね。そうでもなかったら、伝令部隊が投入されるはずないですし」チキンも言った。

「一応復旧は完了してる。急いで戻ろう」そう言って流は段ボールを抱えた。

「臨ちゃん、ありがとう。君のパパに、ガムテープを少し分けてくれてありがとうございました、ってなつや兄ちゃんが言ってた、って伝えておいてね」みどりんはそう言づけた。

「みどりん、行きましょう」チキンが呼んだ。

「うん」

 3人はバタバタ駆け出した。

「それにしても兄さんの先見の明は凄いですね」

「違う。それはたぶんユッスーだと思う」

「え、どうして?」みどりんが訊く。

真王なおなら、商店街、って大枠を取るのがやっと。『榊』まで絞り込んだのはユッスー。試験の山の張り方と一緒」

「あぁ。ジャンルは兄さんに聞け、小問は先生センセに聞け」チキンが呟いた。「とにかく急ぎましょう」

 走る速度を限界まで上げるかのような勢いで、3人はアーケードの下を駆け抜けた。


 商店街を爆走した3人組は、学校のすぐ近くまで戻ってきていた。

「あれ? ルンコちゃん?」

突然みどりんが道の向こうの人影を指差して言った。

「どこ?」流とチキンは訊き返した。

「あっち。お~い! ルンコちゃ~ん!」みどりんは手を振った。

海津見わだつみ先パイ、橙川とがわ先パイ、夏也なつや先パイ‼」

駆けてきたのは、紛れもなく部の後ハイ・相田留美子あいだるみこ、通称ルンコだった。

「ルンコちゃん、こんなでところでどうした?」

「どうしたもこうしたもないですよ、先パイ方。大変なんです。非常事態なんです。五東いつとうヤンキーの団体様が突然乗り込んでくるだろうって……」

「はぁっ! 五東ヤンキーの出入り⁉」流は叫んだ。

「フラグ的中じゃないですか」チキンが指摘する。

「相田、情勢は?」流は尋ねた。

「今、部長率いる有志部隊が準備中です」

「戻ろう!」みどりんは言った。「どうすればいい?」

「先パイ方、ついてきて下さい。今、非常ルートが開いてるはずです」ルンコは駆け出した。

「真王のヤツ、非常事態宣言したようだな」流は呟いた。

「あれ? ルートが開いたってことは?」

「有事実働要員認定されてる部員が全員召集されたってことだろ」流は言った。

 一行は道路を渡り、学校の西門_教職員駐車場に続いている_から校内に入った。

 平素は閉じられている西階段1階部分の扉の前に賢木原さかきばら爽が立っていた。

「……姐さん!」息を切らせながらチキンが言った。「何やってんすか?」

「しっ!」爽は言った。「何って、見張りだよ。上に何人出入りに向かない人間がいると思ってんの? 心配御無用。扉の内には“みっちゃん劇団”の男子メンがいるから」

「それより、五東中ヤンキーが襲来するって、何事っすか?」と、みどりんが尋ねる。

「ペンキ部隊が絡まれて、ちょっとした太刀回りになったらしい。その場はクロシーと桜桃ゆすらうめが何とかしたものの、奴らが執念深く追ってきたって話。静垣しずがきが桜桃の話を聞くなり非常事態宣言を出したから、あたしもよく分からないままこうしてここにいる」

「加勢した方がいいっすか?」

「今、上はあたしと“劇団”の男子メン、伝令部隊、赤音あかねちゃんで固めてる。前線の方はあとの面子が回ってるから、人手不足感は否めないと思う」

「分かった。相田、プロきちたち“劇団”の男子と協力して、この段ボール、上げといて」みどりんは段ボールを下した。

「え……先パイ方、どこへ?」

「真王たちに加勢してくる。あとは任せた!」

「あ、ちょっと! えぇっ……」

「姐さん、場所は?」

「体育館前の渡り廊下!」

「分かった!」言うなり3人組は猛ダッシュをかけた。


 その頃、体育館前の渡り廊下では、慌ただしく迎撃準備が整えられようとしていた。

「兄さん!」駆け戻ってくるなり恭平は言った。「奴ら、交番の前の信号のとこまで来てます……。……あとちょっとでここに……」

「真王!」バケツを両手にバタバタとあきらが走ってきた。

「ボロ雑巾爆弾用意完了だよ!」

「ボロ付けるな、ボロ!」

「だってボロじゃんこれ!」

「うるせっ! それそこに置いてユッスーとバカ殿、それに華琉はるかいちゃん呼んでこい! キョーちゃん、お前はここにいろ! クロシー……」

「ここです、兄さん!」クロシーは返事をした。

「クロシー、投擲とうてきの指示は任せた」

「あ、はい」

 その時、「うおー」という地鳴りのような雄叫びが聞こえてきた。

「来やがったか……」真王は呟いた。

「おおいっ! アカネザキコーキって奴いんだろっ⁉ 出せや‼」

「一緒にいたキツネ顔とウサギ顔も出せや!」

五東中ヤンキーどもは口々に騒いでいる。

「奴らか?」真王は囁いた。

クロシーは、その問いに頷く形で答えた。

「顔出すな、しゃがんでろ」そう言って真王は振り返った。

 その時、彼は目を疑った。こちらへ向かって走ってくる流、蜜柑坊みかんぼう、みどりんの姿を発見したのだ。

「聖! どこだ?」

「呼んだ? 真王」

ユッスーたちを連れて、聖が姿を現した。

「ユッスー、こっちに来てくれ。ただし、しゃがんでてくれよ。それから、華琉、魁ちゃん、投擲要員としてここに立て。聖、キョーちゃん、お前らもだ。バカ殿、お前は下に行って残りの面子と待機だ。不測の事態に備えろ!」

 真王が指示を飛ばし終えるのとほぼ同時に、五東ヤンキーが通用門から雪崩れ込んできた。

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