チキン・オレンジの【4.渡り廊下攻防戦】

 その時、ながるは焦っていた。ヤンキー集団が数人ではなく、1ダースほどだったからだ。だが、ヤバいと思って足を止めた時には、既に渡り廊下の真下に着いてしまっていた。敵軍の真正面。一番避けたかった位置だ。突撃をかけられたら、ひとたまりもない……。

 案の定、ヤンキー軍団から飛び出してきた3人組に、流たちはあっさり押さえつけられ、相手陣にひったてられた。

「おい、アカネザキ! 出てこいよ! 出てこねぇと、こいつらフクロにしてフルボッコにするぞ!」五東いつとうのボスらしきのが言った。

「俺のダチに手出しさせねぇよ!」真王なおが叫んだ。

「戦争は力じゃねぇ! 頭数だ! 全軍、かかれ!」

 すると校舎内からバカ殿と他の部員が1ダースほど出てきた。

投擲とうてき隊、打て~!」どこからかクロシーの声がした。

 すると、頭上を数個の“何か”が飛んだ。そして、そのうちの一つが、チキンを取り押さえていたやつの顔面を直撃した。

 初め、それは流の目には灰色の棒にしか映らなかった。しかし、よくよく見ると、固く絞ったボロ雑巾だった。

 直撃を喰らった五東ヤンキーは自陣に逃げ帰ろうとした。ところが、「汚ねぇ!」「くんなって!」と拒絶されている。

 その間にもう一度雑巾爆弾が投下され、今度は、みどりんを取り押さえているやつに命中した。

 その時、自分を取り押さえているヤンキーが逃げようとしていることに流は気づいた。腕を押さえている力が緩んでいる。

 今しかチャンスはない! 流は蹴りを入れた。

 狙ったわけではなかったが、蹴りは相手の人間の急所を直撃した。股を蹴られた五東ヤンキーは、悲鳴もあげられずにその場にしゃがみ込む……。

「逃げるぞ!」

形勢不利と察したボスが撤退を指示した。すると、五東ヤンキー勢は、負傷者を抱えて潮が引くかのように逃げ出した。

「兄さん! 学区境まで追走します?」バカ殿が尋ねた。

「バカ! そう言って深追いするつもりだろ! やめとけ!」真王の声が降ってきた。

「こっちも撤収だ! ベルギーに訊きたいことがある」

「戻るぞ」バカ殿は部員を引き連れて校舎内に消えた。

「3バカ」上からクロシーの声が聞こえた。

「戻ろう。話を訊くのはあとだ」

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