チキン・オレンジの【2.お使いの帰りに】

 「しかし、それにしてもすごいですよね、兄さん」

「そうそう。あれだけの集団を易々とまとめちゃうなんて」

「まぁ、真王なおのお袋さんもああいうタイプだから。カエルの仔なんだ、って言ってた」

 ながる、チキン、みどりんの3人は、持てるだけの段ボールを持って夕庚ゆうずつ商店街のアーケード通りを歩いていた。

ただし、彼らの持っている物は、ここを回って集めたものではなかった。駅前通りのスーパーへ行ってもらってきたものだった。

「え、兄さんの母親って、あんな感じなんですか?」みどりんが尋ねた。

「うん。もうちょっと……というか、かなりすごい感じ。部下はまとめるは、上司に意見するのも臆さないは、で。女傑って言ったら正確かな? 真王の性別を女に書き換えたら、まさにそのものっていうか」

「意外。兄さん、母親似なんですか」チキンが言った。

「目と性格だけだ、って本人は。外見の大部分は父親譲りだ、って」

「へぇ。兄さんは誰に似てあんななんだろうって思ってましたけど、これを聞いたら納得しました」みどりんは言った。


 それは15分ほど前のことだった。

「おう、流、チキン、みどりん」3班の班長・賢木原爽さかきばらさやかの指揮下、回収班の一員として出撃しようとした3人を呼び止めて真王は言った。

「悪ぃ。お前ら3人で、駅前通りのスーパーに行ってきてくれねぇか?」

「え……何で?」

「商店街の人たちが店の奥まで探し回ったとしても、集まる量は知れてる。買い出しに遣った連中にも段ボールをもらってこいと指示してあるが、任務遂行される可能性は低い。そこで、だ。お前ら3人に保険として、段ボールの確保先の偵察をしてきてもらいたい訳だ」

「でも、どうして?」みどりんは訊いた。

「でも、も、どうして、もないだろうよ。また去年みたく五高いつこうのあんぽんどもがせしめてたら、どうする?」

「あ、そうか。それで偵察」流は納得した。

「そうだ。もし、そんなことになってたら、迷わず店員に言いつけてやれ。段ボールドロがいるって」


 そうやって送り出されはしたものの、運良く想定していた厄介な事態にはなっておらず、彼らは持てるだけの段ボールを頂戴することに成功したのだった。

「これだけ持ってけば、兄さんもきっとご機嫌でしょうね」チキンが言った。

「たぶんね。早く戻ろう」みどりんも言った。

「あ~っ‼」

 ドサドサドサドサ。流の抱えていた段ボールが、派手な音を立てて歩道に散らかった。固定するのに使っていた紙製のガムテープが切れたのが原因らしい。

「ちょっ……流、大丈夫? まさか、フラグ、じゃないよな」

「そうであることを願いたい。けど、ムリ」

 どういうわけだか流は、華琉人はるとの無茶振りやあきらの悪ふざけの巻き添えを喰らいやすい、という軽い不幸体質のような所があった。しかし、自分から災難に飛び込むことはほとんどないに等しい。その約束が破られる時は大抵、ろくでもない事件の暗示と言っても過言ではなかった。

「また前回みたいに何かの前兆……まさか、五東いつとうヤンキーと出入り沙汰になった、とか?」

「止めろチキン! お前まで! 本当にフラグ化したらどうする」みどりんがツッコんだ。

「お前ら拾うの手伝ってくれよ!」そう言いながらも、流は自力で散らばった段ボールを回収した。

「賢木原さん家に寄ってガムテもらってもいい? このままで学校へ戻るの、ムリ」

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