シアリアスナイト【9:夜明け】

 それからの足取りは軽かった。地元に帰ってきたことに加え、時々見かけた看板の“第何緑地”の数字がどんどんカウントダウンされていくのも追い風となったのだろう。

 第3緑地、と書かれた看板の前に来た時。俺は思わず声を上げた。風星かざほし線の鉄橋が見えたのだ。

「おい、風星の鉄橋!」俺は言った。

「やった!」

「うそ……」

 誰もが感嘆の声を漏らす。あの鉄橋が、俺たちのセカイの西端の象徴だった。

「もうじき、帰り着くんだな」と華琉人はると

「あぁ。やっとだ」真王なおが答える。

「これでシアリアスナイトも終わりだな」俺も言う。

「うん」頷いたのはあきら

「早く行こう」ながるが催促する。

「行きましょう」あやめさんが自転車を押しながら歩き出す。

「そうだな」賢木原さかきばらさんも右習え。

 俺たちは鉄橋に向かって歩みを進めた。


 鉄橋の下をくぐり、第2緑地の端に来た時には、皆すっかり安心感に包まれていた。

「お前ら、しっかりしろ!」鳴らしたベルを手で押さえて、真王は言った。

「地元の知ってる所に帰ってきて、気が緩んでるこの時が、一番何かやらかしたりするんだよ。各々家に帰るまで、気ぃ引き締めておけよ」

皆頷いた。その通りだ。「終わりが悪かったら、全て台無し」だ。


 東の空がうっすらと竜胆りんどう色に染まってきた頃。俺たちの家に最も近い、第1緑地に辿り着いた。もうすぐ夜が明ける。

「夜が明けるな」真王が言う。

「長かった夜も終わり。新たな気持ちで行こうよ」聖も言う。

「日の出、見てから帰りません?」菖さんが尋ねた。

「いいよ。菖ちゃん。見て行こう」

真王の一言に、あとの皆も頷く。

「あっちの開けた所、行こうぜ。今年の初日の出見た」華琉人は駆け出した。

「早く来いよ。早くしねぇと、日、昇っちまうぞ」振り返り様に彼は言った。

「約1月前にシアリアスナイトふっかけたやつが、よく言うよ」呆れ気味の賢木原さん。

 そうか。前のシアリアスナイト_華琉の親父さんの死_から、もう約1月か。

「あの時は、五星いつぼし橋の上から、だったっけ?」俺は呟く。

桜桃ゆすらうめ、置いていかれるぞ」

 ハッと顔を上げる。少し離れた所から賢木原さんが呼んでいた。

「待ってくれって!」

 俺は急いで駆け出した。

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