シアリアスナイト【8:夢から醒めて】

 俺は目覚めた。今の今まで、ヤンキー化した3人からフルボッコにされる夢を見ていたらしい。全く嫌な夢だ。

 そんなことより、真王なおはまだ来てないのか? 一度眠ってしまったから、時間の感覚がない。

 時刻を知るためにケータイを点けて驚愕きょうがくした。現在時刻、午前2時半。

あきらの一件は午前0時過ぎだった。追いかけて連絡を取るまでに要した時間を考えても、30分はかかっていないはずだ。ということは、2時間近く眠っていたことになる。

 あれ? 俺、置いていかれた? 不安に駆られ、辺りを見回したその時。一条の光が俺の目を射た。眩しさに目を細める。すると光の位置が少し逸れる。

「おはよう、ユッスー。起こす手間が省けたな」真王だった。

「どうした? 幽霊でも見たような顔して」

「嫌な夢見た」俺は言った。「ヤンキーになったお前と華琉はると聖にフルボッコにされる夢。」

「定番だな、お前。変な所で寝落ちると」真王は笑う。

「そうだ、まだ皆寝てるから、起こしてくれ」

「分かったよ。それより、何で来た時点で起こしてくれなかったんだよ。目覚めてビックリしたじゃねぇか」俺は尋ねた。

「あぁ。お前ら3人、揃って気持ち良さそうに眠ってたから、起こすのが忍びなくて。ついでに俺らも眠っちまったし」

「はぁっ⁉ まさか女子チームも?」

「うん。そこで」

真王が照らした先にあやめさんの背中が見えた。

「お前、サツに見つかったらどうするつもりだったんだよ」俺は問うた。

この展開、一番お前が嫌うやつだろ。

「この暗闇だろ? それにここは道路より下だし、あっちの方にやぶがある」そう言って真王は女子チームの斜め上の辺りを指さした。

「パトから覗いたところで分かんねぇよ」

「それ、パトランプ点いてる前提か?」

真王は頷いた。

こいつの脳内でどんな計算式が立てられ、どのようなシュミレーションが行なわれたのだろう。それが知りたい。

「それはそうと、十分に休息も取れたはずだからそろそろ出発するぞ、って男子メンを起こしてくれ」

真王は女子チームを起こしにかかった。

 俺はケータイを開ける。バックライトの瞬光でも、ないよりはマシだ。

 2、3回の明滅の末、俺はすぐ隣に聖がいることに気がついた。

 一瞬、さっきの悪夢の内容が頭を横切り、蹴飛ばして起こしてやろうかとも思ったが、それは止めにした。

「ほら、起きろ聖。華琉も」俺は2人まとめて起こしにかかる。「真王が出発するぞ、って。置いてかれたくないなら、早く起きろ」

 ほらほら、とやっている最中に、俺は何かにつまずいた。イテ……。まただ。

「イテテ……。ちょっと誰⁉ 人のこと蹴ったの」

「ごめん、聖。俺」と俺。

「ユッスー、気をつけてよ。ところで、今何時?」

「聞いて驚け。ただいま深夜2時30分過ぎ」

「はぁっ⁉」華琉人が飛び起きた。「真王は?」

「ここだ」と懐中電灯が向けられる。

「起きたか? 出発するぞ……って、華琉。お前、靴、どこにやった?」

「え……水たまりにはまって、乾かそうと思って脱いで、その辺に……」

「下まで転がってた」

 いつの間に起き出していたのか、ながるが土手を登ってきた。

「はい。華琉の」

「どうも」

 華琉人がスニーカーを履いたので、俺たちは堤防道路へと上がった。

「よし。お前ら喜べ」真王が言った。「端の方だけど、俺らの街には入った。あとちょっとだ。気合い入れて行くぞ」

「おう!」

 再び俺たちは元気よく歩き出した。

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