シアリアスナイト【6:仲直り】
真夜中の河川敷を満たしているのは闇だ。それは目の前にある物を全て覆い隠してしまうほどの濃さで広がっている。
だからススキの
「すまねぇ、
「良いってことよ。それより、元の道に戻ろうぜ。こんなところに
そうして藪の向こうに辿り着いた時には、二人とも数ヵ所の切り傷を負っていた。
「イッテ。葉っぱにやられて、指とか掌とか
「
「あ……。それもそうか」
再び歩き出したものの、5分と経たずに華琉人がゴルフコースの水たまりに突っ込んで、スニーカーを濡らしてしまった。
「大丈夫かお前。ガラにもなく……」
「さっきお前助けなきゃ良かった。……って、嘘だよ。本気にすんなって」華琉人は濡れたスニーカーを脱ぐことにしたようだ。
「うわっ。靴下までビッショビショ……」
「嫌なら脱いで絞れよ」俺はツッコんだ。
「そのつもりだよ、言われなくても」
ジャッと水が絞り出される音。もう一度。彼の靴はどれほど水を吸ったのだろう。
「ユッスー? 華琉?」闇の彼方から聖の声がした。
「聖? どこだ?」俺は問い返した。
ケータイのバックライトとおぼしき小さな明かりが、ここだ、と言わんばかりに点いて消えた。
「聖!」と駆け寄ろうとして、俺は何かにつまずいて転んだ。手探りで正体を知ろうと試みる。そう。これは……。スニーカー⁉
「ちょっとユッスー、オレのスニーカー、蹴飛ばさないでよ!」
何でこいつ靴脱いでんだ? ……まさか……。
「ひょっとしてお前も水たまり行き?」華琉人が訊いた。
「うひゃひゃひゃひゃ。まさに。バシャン、って。てか、こんな所にゴルフ場あるとか知らねぇし。ユッスー、知ってた?」
「知る訳ねぇだろ」俺はツッコんだ。「つか俺は川に落ちかけたよ」
「うひゃひゃ。本当に落ちれば良かったのに。あ、でも、そしたら溺れて死ぬな、お前のことだから」
「ひでーな。そういうこと言う?」と俺。
「いつものじゃん、だって。オレが発端で、ユッスーと
「時々チキンな」と華琉人が付け加える。
「あぁ。忘れてた」聖はもう一度うひゃひゃひゃひゃと笑う。
「真王に電話するっつぅ約束だった。」俺はケータイで真王を呼び出した。
「あ、もしもし。真王? 俺。ユッスー。聖に追いつい……え? 今? 現在地? ちょっ……ちょっと待って……」
土手を駆け上がる。上がった先に運よく看板があった。
「えぇっと、
通話を終えた俺は、急いで2人の元へ駆け戻って、真王とのやり取りを説明した。そして3人で待ち合わせ場所の土手に寝転んで、真王たちを待つことにした。
「あと10分はかかるってよ、真王たち」
「それでも、五星に入ってたんだな」と華琉人。
地元の地名を聞いて、ここまでほっとしたことがあっただろうか。
「さっきはごめん2人とも」聖が言った。
「さっきって、いつだよ」俺は訊き返した。
いろいろあり過ぎて、どれのことだよ。
「前の休憩の時に、『放っといてよ!』って逃げたこと。オレ、親父に叱られたのが腹立たしくて」
「あぁ。そのこと。誰も気にしちゃいねぇよ、そんな分かり切ったこと」俺は言った。
「ならいいや、オレ、どうやって皆に謝ろうか、って考えてた」
「ごめん大魔神が珍しいな」華琉人が指摘する。
「だって、オレ、昔っから皆に迷惑かけっ放しでしょ」と聖。
確かにそうだ。こいつは、生まれつきの明褐色の髪色が災いして、イジメの標的にされたり、ヤンキーにケンカをふっかけられたりされてきた。その度に、俺らあとの4人が助けに入っていた。
「だから、あの時、親父に『またお前は周りを巻き込んで!』って怒られて……」
「それでいら立ちを俺らにぶつけた、と」
「うん。ごめん」
「聖、気にすんなよ」華琉人は言う。
「お前には、真王みたいなリーダーシップの才もなければ、ユッスーの優秀明晰な頭脳もない。けどな、お前には、お前だけの才があるんだよ。……きっと」
「きっと、って何だよ!」聖がツッコむ。
楽しそうだな、あいつら。けど俺は……眠い!
「俺、真王たちが来るまで寝るわ」俺は宣言する。
「おう。お休みー」聖が答える。
さやさやと風の音を聞いているうちに、俺の意識は闇の中に溶け出していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます