シアリアスナイト【2:フードコートの事件】

 「何で俺がパシらされなきゃなんないわけ?」俺はジュースの缶を4本も持たされていた。

「こいつが、なら分かるけど」そう言って隣にいるながるあごでしゃくる。こっちは3本の缶ジュースを持っている。

 俺たちは、遊園地近くの大型ショッピングモールのフードコートの片隅にいた。

 俺の向かいには、ふてくされ顔の華琉人はるとが座っている。

華琉はる、機嫌直してくれよ」俺はコーラの缶を差し出した。「悪かったよ」

華琉人は無言で缶を受け取り、プルトップを起こした。

「うひゃひゃひゃひゃ。こいつ、ビビり過ぎでさぁ」笑いながらあきらが言う。「途中からオレの手、ガッツリ握ってきて」

「それ言うなって!」華琉人は缶の底を机の天板にガツンと叩き付けた。

 直後。缶から茶色い水柱が上がり、彼の顔を直撃した。もちろん、俺らは大爆笑。

「ふはは。華……華琉……大丈夫?」流が尋ねる。

咳き込みながらも華琉人はうなずく。

「うわっ……何かヒリヒリする……」

「コーラのPHは3.8って、割と強酸なんだよ。炭“酸”飲料は伊達じゃねぇってことだ」俺は説明した。

光野ひかりの、お前、トイレで髪洗ってこい。炭酸かぶって放っておくと、ベタベタになるぞ」流の彼女・賢木原さかきばらさんが言った。

「てっ……てかさ、天パーって、水で濡れるとクシャクシャになるって知ってる?」華琉人は指摘する。

「お前場合、元が結構クシャクシャだから、ちょっとくらいなったところで分かんないんじゃね?」

「ひっ……ひどい……」華琉人は心外だ、と言わんばかりに真王なおにらんだ。

「とにかく。ほら、華琉。便所行くぞ」臆することなく真王は華琉人の腕を掴む。

「え、あ。真王? ちょっと! えー」

真王によって華琉人はトイレへ強制連行された。

「あー。あいつ、拉致られた」流が言った。「これからどうする?」

「あの二人がどれくらいで戻ってくるか知らねぇけど、18歳ルールの適用時刻に間に合うんなら、ゲーセンでちょっと遊んで帰らね?」俺は提案する。

「いいじゃん」

 この時。このあと見舞われる非常事態を、誰が想定していただろう。

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