シアリアスナイト【1:本日のハイライト】

 俺の目の前には、夕陽に紅く染められた空が広がっている。眼下に臨む海はキラキラと輝いている。

「本日のハイライトだよねー」向かいに座っているあきらが言った。

「ハイライトって、早くね?」俺はツッコんだ。

「だって観覧車乗ってるじゃん。しかも男3人で。暑苦しいよ」左隣に座っている華琉人はるとがボヤく。

「仕方ねぇだろ。真王なおながるが、Wデート状態で前のやつに乗っちまったんだから」俺は根本を指摘した。

「そうだけどさぁ……」華琉人はまだ、何か言いたげだ。

 華琉人はこの夏、大変だった。夏休みの後半に、彼の父親が交通事故で亡くなった。挙句、華琉人本人の出自に絡む事実が発覚して、つい最近までバタバタしていた。

 「じゃあ、何で志乃原しのはらさん、誘わなかったの?」聖が尋ねる。

「誘ったけど、その日は“四姉妹”で映画観に行くから、って断られちまった」と華琉人。

「夏休み中の騒動もあって、どうなるかと思ったけど、なんだかんだ言って、本調子まで戻ってきてんじゃねぇか」俺は言った。「安心したよ、華琉はる

「当ったり前だろ。人を好きになるのは別件だよ」と、彼は羨ましそうに斜め上を見上げた。

あ。先行のゴンドラか。

 それには、真王と流が彼女同伴で乗っている。華琉人はそれを羨んでいるのだ。きっと二組仲良くしてるに決まってるんだろうけど。

 俺と聖、華琉人、真王、流は幼馴染だ。小学生の頃からの仲なので、もう10年以上の付き合いになる。「気心の知れた」とか「気が置けない」と言った関係だ。

 俺は桜桃晶司ゆすらうめしょうじ。桜に桃と書いて桜桃。水晶の「晶」に司で晶司だ。仲間たちは俺のことはもっぱらあだ名の「ユッスー」で呼ぶ。

 今日、俺たちは隣町_空透からすき市_のポート遊パークという海浜遊園地に来ていた。

午前中に近くの市営水族館に行って、午後中ずっと遊園地でアトラクション巡りをしていた。

 夕陽に照らされてオレンジ色に染まったゴンドラの中に、突如響くケータイの着メロ……。

「あれ? 誰かケータイ鳴ってね……。……って、俺だ!」

ジーンズのポケットからそれを取り出す。メールが1件届いている。

「流からだ……」

「何て?」聖が覗き込もうとする。

「このあと、お化け屋敷行かないか、って」

「えっ……」

「どうしたの、華琉?」聖が訊く。

「え? 知らないの?」華琉人は嘘だろ、という顔をしている。「ここのお化け屋敷、マジ怖いって話、知ってる?」

「だから行こうって言うんだろ?」俺は言った。

「え……。マジ無理! パス‼」華琉人は叫ぶ。

すかさず俺は、『華琉がぜひとも行きたいそうです』と打ってメールを送信した。

「あ! ユッスー、何送ったんだよ!」と華琉人。

「いいじゃん、別に」俺は急いでケータイをしまう。

「教えろよ!」

「ヤダ!」

 俺ら3人は、ゴンドラの中で仔犬のようにふざけ合って過ごした。

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