色褪せないで 【9:金星(きんぼし)にはほど遠く】
「
傷口に
「ごめんね。遅くなって」申し訳なさそうにヒカルが言いました。
「遅くなったって、間に合ったんで、大丈夫です。僕は日頃の運が悪い分だけ、こういう時の運は良いんです」
どっからでもかかってこい! なんて強気に意気込んでみたものの。
結局、その階の人目につきにくい通路でタコ殴りにされて、財布を巻き上げられ……そうになりました。今回、事が未遂で済んだのは、すんでのところでヒカルが警備員を連れて駆けつけてくれたからでした。
ヤンキーどもは警備員にしょっ引かれ、僕らは近くのベンチに座っていた所を、インフォメーションのお姉さんが親切にも事務所に入れてくれたので、傷の手当ができた次第です。
「はい、最後の一ヵ所」
ヒカルは僕の左腕に絆創膏を貼りました。
「ヒカル」僕は言います。
「帰ろう。プリなんて、今日撮らなくていいよ。また次の時にしよう?」
反論されるかな? と思いましたが、ヒカルは
「うん、チキンが無事で良かった……」
インフォメーションのお姉さんに見送られて、僕らはショッピングモール内に復帰しました。
「すいませんでした」
「ありがとうございました」
再度お礼を言ってから、僕らは歩き出しました。
「ヒカル、本当にごめん」僕は謝ります。
「昨日といい、今日といい、全然君の役にたてなくて」
「ううん」ヒカルは首を横に振りました。
「そんなことないよ、チキン。……チキンは、あたしのことを最優先で考えてくれたじゃない」
……そう。僕は君のことを最優先に考えて動いた。でも、君を逃がすだけで精一杯だった。本当はそうじゃなくて。君を守りながら、敵に立ち向かいたかった。あの人のように……
「もう帰ろう」ヒカルは言います。
「これ以上チキンが傷つくところは見たくないもん」
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