色褪せないで 【6:フードコートで想うこと】
「そう言えば、こないだ小耳に挟んだんだけどね」
ショッピングモールの長い通路を歩きながらヒカルは言います。
「ラッコ、またデキたんだって」
「はぁっ!? この前産んだばかりじゃなかったっけ?」思わず僕は訊き返しました。
ラッコというのは、中学の同期のヘッポコヤンキー女子のあだ名です。去年、半回り上の彼氏とデキ婚した大変な問題児です。
「この前って言っても、もう半年も前じゃない。……でも、あんまりビックリしないよね」とヒカル。
「まぁ、中学の時から、いつか現実になる、って言われ続けたことが、そうなっただけですからね」
「それだ。……あ。フードコートあるよ。ちょうどいい時間だし、ひどく混む前にお昼ご飯にしようよ!」とヒカルは中へ入って行きます。
フードコートの中は様々な飲食店の簡易キッチンが軒を連ねています。
「どれにしよう……迷っちゃうね」
有名なファーストフードチェーン、この地域で知らない人はいないド定番のラーメンチェーン。お値段お高めのコーヒーショップや、ドーナツ・アイスクリーム・クレープなどの専門店もあります。
空いている席を探しつつ、僕らは各店舗のメニューを覗き見ていきました。
暫く歩き回った末に、窓際の一角に、二人掛けの席が空いていたので、僕らはそこに陣取ることにしました。
「ヒカル、先に買いに行って下さい。僕はここで待ってますんで」
「ありがと」
ヒカルは人混みに駆け入って行きました。
僕は窓の向こうの青空を見つめました。
……このままヒカルと
僕には優れたリーダーシップもなければ、学年一の頭脳もない。際立った身体的特徴もなければ、ケンカもさっぱりで……。
どう考えても僕は頼り甲斐に欠けてしまう。もし、この場で何か起こったとしたら、僕はヒカルの手を引いて逃げることしかできない。
……でもそれって、女の子から見てどうなんだろう……
僕の脳裏に浮かぶのは、彼女を守るため、シッカと敵に立ち向かう男子の姿ばかり……。
……あぁ。きっとあの人のせいだ……
「お待たせ」
振り返ると、いつの間にかヒカルが戻ってきていました。その手には、ハンバーガーセットが載ったお盆が握られています。
「あ。おかえり」その瞬間、僕はあることに気づきました。
「フラポテ、多くない?」
「あ。増量キャンペーン中だったから。これでもMサイズなんだけど……」
……えっ!? それのどこがMサイズのフラポテ? Lサイズの半分ちょいくらいありそうなんですけど……
「チキンも何か買ってきたら? 今度はあたしが待ってるから」
「うん、ありがとう」
僕は席を立って人混みへ入ります。
……ラーメンを食べようかと思ったけど、予定変更。さて、何を食べようか……
結局、フードコートを半周した所にあった店舗で、十個六百円のたこ焼きを買いました。
……でもこれって、適正価格なんでしょうか?……
「お待たせ~」
僕が席に戻ってきた時、ヒカルは一所懸命ケータイとにらめっこの真っ最中……
「何してるの?」僕は尋ねます。
「おかえり」顔を上げてヒカルは言いました。
「あ。これ? マキコとメールしてたの」
「また遊びに行くの?」
「うん。映画を観に行こう、って話になってるんだけどね。あ。食べようよ、お昼ご飯。そうそうフラポテ少し食べてよ」
……やっぱりそんなことになる気がした。ラーメン止して正解、正解……
昼食の間中、僕はひたすら聞き役に徹しました。
中学の時に“ゴシ
「ピカリン
僕は頷きます。一応友人伝に、彼が通夜の最中に親戚相手に乱闘騒ぎを引き起こした、なんて話も聞いていました。
「で、散々モメたんだけど、今は立ち直ったって」とヒカル。
……あ。彼、立ち直ったんだ……
「へぇ。それは知らなかった」
……あぁ。もう何度目か分からない、この相槌……
「それで今、新しい彼女がいるんだって」
「ゴホッ! ゲホッ! オヘッ……」思わず咳込んでむせ返りました。今何と……?
「え……。ピカリン、また好きな人、できたんですか?」僕は訊き返します。
「らしいよ。高校の同級生だって。かわいい子みたい。ちなみに、彼女の方から告白したって話」
……何か今年、僕と彼の行動カブリ率半端ない……。妙なシンパシーまで感じちゃいます。
「……で、只今交際始めました、と?」
「うん。しかも学祭前日からだって」
「エホッ!?」
……妙なデジャヴ。……あとで彼に電話して共感してもらおう……
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