色褪せないで 【1:文化祭の事件】

 そもそものことの起こりは、昨日まであった学園祭でした。一昨日が学内向けの発表日で、昨日は一般公開日でした。

 僕はクラス発表の当番の合間を縫って、同好会の仲間と校内パトロールのボランティアをしていました。

 僕が同好会の発表展示の教室で、守り番をしていた時のこと。

「ねぇっ! チキン、大変だよ!!」

突然、部屋に飛び込んできたのは、前田弘秋まえだひろあき、通称マエヒロ。同中おなちゅう出身の僕の同級生です。

「マエヒロ、どうしたんですか?」僕は尋ねました。

「どうしたも、こうしたもないんだ! ヒカルが、アモラルな人々を追いかけて行って……」

「えっ!? どこへ?」僕は訊きました。

「B棟の三階」とマエヒロ。

「B棟の三階って……、……立入禁止エリアになってる所じゃないですか!? マエヒロ、今すぐ、会の一年坊っ子一人か二人呼び出して、臨時の守り番させて! それから生指の先生誰か呼んできて下さい! 僕はとりあえず現場へ行くので!」

言うなり僕は駆け出しました。

 ……ヒカル、怪我するんじゃないぞ……

なぜか僕の脳裏に浮かぶのは、傷ついて泣きじゃくっている彼女の姿……。

 不安を打ち消すためかのように、僕は廊下を疾走し、現場へと向かいました。


 現場の一階下、B棟二階の踊り場に駆け込んだ時、僕の心配は杞憂きゆうに過ぎなかったと分かりました。

 上から降ってくるヒカルの声。中学の頃に散々聞いた、ちゃらんぽらんかましたり、ポカったやつに雷を落とす時の、あの声。

……またハデにやってるなぁ……

 立入禁止エリアに踏み込む、ということもあって、僕は一度周囲を確認します。そして、一気に上階へと駆け上がりました。

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