マブタノキミ 12
手当てを終えた私とキジマは、ヒラヤマさんの家に戻った。
元々今日は休みを取っていたことと怪我の件もあり、報告書やらマシーンを壊した始末書はサカガミに押し付けたので大丈夫だろう。
アツコさんは怪我をした私たちを見るとひどくショックを受けたようで何度も謝られたが、あの医者が少女の出した妄想であったのだから、巻き込んだのは私の方だ。
それを伝えるわけにもいかず、私はこれが仕事だからと答えるしかなかった。
「何故私が母の妄想で父を…殺そうとしていたかは…わかったんですか?」
謝るのをやめてから、聞きづらそうに切り出された問いに私は言葉に詰まらせる。
少なくともあの退行催眠の記録は本物のようだった。
どこまであの話が本当かはわからないが、ヒラヤマさんがアツコさんや奥さんに暴力をふるっていたということを確かめなければならない。
「ヒラヤマさんは心当たりがありますか。」
私が尋ねると、ヒラヤマさんは困惑した表情を浮かべる。
「…いや、無いな。」
そう絞り出すように答えた返事は心当たりがあると言っているようなものだった。
「嘘。お父さんは、お母さんや私にひどいことをしていたじゃない!」
アツコさんが怒鳴る。
「アツコ…お前、あの頃のこと、覚えて…」
ヒラヤマさんは動揺を隠せずにいる。
「ずっと忘れてたよ、でも今日、あの時、思い出したの…。
だから、夢であれ、あの私の妄想は私の気持ちなんだわ。
私はこのままお父さんとは暮らせない、いつか本当に殺してしまう。」
アツコさんは涙を流しながらそう告げた。
「しかし、結局貴女はヒラヤマさんを殺さなかったじゃないか。
毎晩のように出てきていたのに、お母さんの妄想は…」
割って入った私の言葉をヒラヤマさんが手を軽く挙げて制する。
そして、意を決したように言った。
「私は誓ってあいつにもお前にも、暴力をふるったことは一度もない。
私は二人を愛している。本当だ。」
「だったら!なんで、お母さんが、お父さんが出したお母さんは泣いてたの?!
私、見てたんだから。
お父さんが今日家を出る前、マシーンを使ってたの。
お母さんは泣いてたじゃない!
お父さんの記憶の中のお母さんは泣いてるってことでしょう!」
アツコさんが問い詰めると、ヒラヤマさんはマシーンを装着し、起動させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます