マブタノキミ 11

キジマが死ぬ。


金縛りのように動かなかった体がようやく動き、私はドーリィを口に放り込むとマシーンを起動した。


瞬間、医者のナイフが小柄な人のような形をした白い歪な物体に刺さる。


「……なんだよ、これ…」


目の前で崩れる物体を見ながらキジマが呟いた。

医者は動きを止め、目を見開き私を見ている。


違う、私はこんなものを出したかったのではない。


そう思う心とは裏腹に部屋には次々とそれが増えていく。

それは増えるたびに段々とはっきりとした形となっていった。


とうとう完成に近いそれが現れたと同時、私はマシーンを反射的に壁に投げつける。

マシーンが壊れ、部屋を埋め尽くそうとしていたそれらは消えた。


「あーあ…。」


落胆したように呟くと、医者がナイフを構え直した。


自ら対抗の手段を破棄してしまったたが、キジマの前に飛び出して代わりに刺されてやるくらいはできるかもしれない。

そう思うのが早いか、体が動いていた。


二人の間に躍り出た私の肩にナイフが刺さる。

少女が何か言ったが、その直後に響いた銃声で聞こえなかった。


医者が倒れ、消える。


刺された肩は燃えるような熱さだが、刺した凶器も消えていた。


「…何が、起きたんだ…。」


私とキジマは呆然と立ち竦むしかない。

銃声のした方向から、聞き覚えのある声がした。


「間に合ったかあ。

上手く使えるかわからなかったが、なんとかなったな。」


振り返ると、そこには銃を構えたヒラヤマさんが立っていた。


「ヒラヤマさん、どうしてここに。」


「いや、アツコからお前らがここに向かったって話を聞いてな。

マシーンとあいつが持ってた薬持って飛び出してきちまったよ。

っと、そんなことよりとりあえずお前ら、病院連れてくから車に乗れ。」


ヒラヤマさんに肩を貸してもらい立ち上がったキジマは、私に何か言いたそうな顔をしてこちらを見たが、私と目が合うとすぐに目を逸らして無言のまま部屋から出ていった。


あいつとのコンビももう解消かもしれない。

そんなことを考えながら部屋を出ようとすると、部屋の隅にある私が壊したマシーンに目がいく。


自分が出したあのおぞましい物体のことを思いだし、強烈な吐き気に襲われた。

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