マブタノキミ 2

「それで…?なんでお前がついてくるんだ。」


私は助手席に向かって呟く。


「アサヌマさんの先輩は俺の先輩ですから!あと家庭料理というやつが食べてみたいからです!」


キジマは何故か大威張りで答えてきた。


「夕飯目当てかよ…。」


あの後再び電話があり、飯でも用意して待ってるから早く来いよとヒラヤマさんが言ってきた。

私が妻に夕飯はいらない旨を連絡していたのをキジマに聞かれていたようだ。


「でもヒラヤマさん飯なんか作れるのか疑問だぞ。奥さんは十年前に他界したらしいし、私があの人と仕事していた時は帰りにラーメン屋ばかり行っていた覚えしかない。」


家政婦でも雇ったのかな、と私はぼんやりと考える。



ほどなくしてヒラヤマさんの家に着くと、私より少し若い年頃の女性が出迎えてくれた。

テキパキとした人で、私たちをヒラヤマさんの元に案内すると食事を運んで戻ってきた。


「娘のアツコだよ、いい年して少し前に出戻って来ちまってね。」


「もう、お父さんが一人で寂しい寂しいって言うから帰ってきてあげたのよ。感謝してよね。」


ヒラヤマさんは恥ずかしい話だろう、と言いながらも嬉しそうに見えた。

奥さんがいなくなった家に一人で住んでいるのはやはり寂しかったのだろう。


「ん、お前が連れてる男前は部下か?バツイチのダメ娘だが良かったら貰ってくれてもいいぞ。」


ヒラヤマさんが豪快に笑いながらキジマにビールを勧めたので、まだ未成年なので勘弁してやってください、と止めたが、働いてるならもう立派な大人だと言って結局飲ませていた。

仕方ない、私も大学に上がった時には酒も煙草も手を出していたし、今夜は目を瞑ることとしよう。


キジマは出された食事を食べながら、こんなに旨いご飯が作れるお姉さんなら貰ってもいいです、と冗談めかして答える。

アツコさんは顔を赤くして、やだ、からかわないでくださいよ、と台所に引っ込んでしまった。


アツコさんが席を外してから少しして、ヒラヤマさんの顔を見ると先程とは変わって真剣な表情をしている。

どうしたのかと箸を止めた私に、低い声でヒラヤマさんは尋ねた。


「なあ、アサヌマ、お前幽霊って信じるか?」


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