マブタノキミ 3

「幽霊…ですか?

いや、私は見たことが無いので、なんとも言えませんが…なぜ?」


言葉を選びながら答えると、ヒラヤマさんは顔を曇らせて話し始めた。


「数週間前からか、夜になるとな、出るんだ。あいつが。家内が。」


「出る、とは…?」


「夜になると枕元にあいつが座っててな。

初めは驚いて、でもすぐにああ夢かって思ったさ。

そしたら、あいつがな、首を絞めてくるんだ、俺の。

抵抗しても敵わない。

バタバタ暴れてるうちにフーッと意識が遠のいて、目を覚ますと朝なんだよ。」


私の記憶ではヒラヤマさんはこの手の冗談は言わない。

単なる夢なのではと思ったが、私の考えを察したようにヒラヤマさんはタートルネックを少し下げて見せる。


確かに、ヒラヤマさんの首には指のような痣があった。


キジマは、うわー、リアル心霊体験!などと騒いでいる。

しかしその痣を見ても私には、にわかに信じがたい話だった。


私は次の非番の前夜にヒラヤマさん宅に泊まり、その幽霊を確認するという約束をしてその日は酒が入ったので代行を呼んで帰ることにした。


***


「なあ、どう思う?あの話。」


私は車の後部座席で揺られながら隣で眠そうにしているキジマに尋ねる。


「おっさんのボケが始まった。」


キジマは酒のせいかタメ口で答えてきた。


「あの痣は?」


「自分で絞めた。」


単発でしか話さなくなっている。

余程眠いらしい。


自分で絞めたらあんな形に指の痕はつかないことくらいわかるだろう。

適当に答えているようだ。


「…幽霊っていると思うか?」


少し間を置いてキジマに声をかけたが、寝てしまったらしく返事は無かった。


キジマを家まで送り、叩き起こして部屋に入るのを見届けてから車に戻る。

すると、運転代行業者の男性がボソッと呟いた。


「幽霊は…いますよ。」


私が、はあ、と気のない返事を返す。運転手は嬉々として体験談のようなものを語りだしたので、自分の家までの道のりは眠ることに決めた。

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