ドーリィ 8

事情聴取が一通り済んだ後、少年はキジマになついたようで、何やらずっと話し込んでいた。


妄想の実体化とドーリィの所持という罪状はあったが、他人に危害を及ぼしておらず、年齢の考慮と初犯ということもあり反省文を書かせてその日のうちに少年は家に帰されることとなった。



「あのガキ、友達がいないそうなんで友達になってあげました。」


帰りの車内でポツリとキジマが呟いた。


「ああ、お前も友達いないからちょうどよかったな。」


「えっ、俺だって友達くらいいますよ!アサヌマさんとか。」


いつから私はこいつと友達になったのだろう。

つっこむのも面倒くさいので、そうだったかな、と適当に答える。


一度署に寄ってから家に帰ると深夜を回っていた。

テーブルには一人分の夕飯が用意されている。

妻はもう寝たのだろうか。

ドリームルームのチカチカと光る使用中の文字を横目に私は一人寝室に向かう。


***


けたたましい携帯の呼び出し音で目を覚ました時、時計はAM3時を示していた。


こんな時間に呼び出しとは、嫌な予感しかしない。

電話の向こうではサカガミが何か騒いでいる。

寝ぼけた頭にマスダという単語だけが飛び込んできて、慌ただしく着替えを済ませると少年の家へと車を飛ばした。



合流したキジマと共に家へと飛び込むと、少年は真っ暗な部屋の中に一人で立っていた。


少年の耳元にはマシンとの接続機がついていたが、マシンは壊れたままだ。


少年は私たちに気づくと、血まみれのナイフを床に落として言った。


「おかしいなあ、スイッチ切ったのに消えないんだ、この死体。」


キジマは無言だった。

何か言おうとしたようだが、言葉が出なかったのか、一度だけ思いきり壁を殴っただけだ。

少年はその音に少しだけ体を震わせたが、その後は特に何も言わず、ただ床を見つめていた。



少年の足元に転がる死体を見て、私は思い出す。

少年が妄想で築き上げていた無数の死体の顔は皆、この、今はもう動かなくなった彼の母親の顔とよく似ていたことを。

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