ドーリィ 5
少年が搬送された病院の喫煙室からガラス窓越しにぼんやりと待合室を眺めていると、何やら女性看護師が数人集まってキャアキャアと騒いでいるのが見えた。
彼女らの視線の先を追わずとも何となくその先にある物の想像はつく。
それは、どうやらこちらに移動して来ているということも。
ほどなくしてそれはドアを開けて喫煙室に入って来ると、いつもの軽薄な笑顔で言った。
「あと数時間もしたら面会可能だそーですよ。それまで暇ですねー、あ、俺にも一本くださいよ、その時代錯誤なやつ。」
私は肺から煙を吐き出しながら答える。
「未成年にはあげられないな。報告は終わったのか?」
「違法薬物は許可されてるのに?」
軽口を叩くキジマを軽く睨むと、はいはい報告は終わりましたよと肩を竦めて隣に腰掛けた。
「少年の母親は?」
「ガキが治療室に入ってた時は治療室の前で泣いてましたけど、今は病室じゃないですかね。なんか嫌われてるみたいなんで、ガキが起きるまではほっといたらいいんじゃないですかねー。」
言い方に問題はあるが、今はまだ落ち着くまで待った方がいいだろう。
私は新しい煙草に火をつけた。
「そういえばキジマ、あれはなんだ?あの熊。」
何となく気になっていたので聞いてみると、キジマはまるで1+1は2ですとでも言うように答える。
「シグマール三世ですけど?」
全く意味がわからなかったので、そうか、とだけ返して煙を燻らせた。
しばらく静寂と私が吐き出す煙だけが喫煙室を包んでいたが、その静寂は私のあまり得意ではない人間の出現によって破られた。
ガチャリと扉が開き、見慣れた眼鏡が顔を覗かせる。
「こんなところにいたんですか、壊し屋さんとパーキーパットは。」
「サカガミ…。」
サカガミは妄想対策課の仲間であるが、基本的にデスクワークをしている。
煙草が嫌いらしい彼は眼鏡の奥の顔をしかめながら、嫌味たらしく続けた。
「母親への事情聴取は自分がやることになりました、お二人はまた余計なことをしたようですので話したくないようですから。お二人は少年が目を覚ましたら少年に事情聴取してください。あとアサヌマさんはまたマシンを壊したそうですが、何なんですか?貴方が物を壊す度に自分の仕事が増えるんですけどちょっとは考えて行動したらどうなんですかね?」
私はマシンガンのように嫌味を吐き続けるサカガミを見ながら今日はまた長い1日になりそうだなと思った。
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