アカガエル 3

五階に着くと、廊下には十五、六歳の美しい少女がいた。


真っ白なワンピースの裾を小さく持ち上げて、彼女は満面の笑顔で私に言う。


「アサヌマさん。会いたかったよ。」


全身の血の気が引くのがわかる。


「何故、君が。」


思考はほとんど停止しかけていたが体だけは勝手に動き、私は彼女に向かって銃を構えていた。


彼女は一瞬目を見開いたが、またすぐ笑顔に戻り、静かに言う。


「どうして?私はずっと、アサヌマさんを」


やめろ。


彼女の言葉が終わる前に私は引き金を引いた。



乾いた銃声が響き渡り、また廊下に静寂が戻ったが、彼女はまだそこに立っている。

確かに命中したはずだが。


「この私は妄想だから、普通の銃では意味がないよ。早く私を消さないとあの人、死んじゃうよ。」


そう言って髪をかきあげ、耳元に付いているマシーンの通信機を見せる。


妄想がマシーンを使用している?

そんなことはできるはずが、いや、彼女であれば、できるのだろう。


「早く、ドーリィ使って見せてよ。あの日からずっと、使っていないんでしょう?」


内ポケットにある携帯型のマシーンとドーリィに手を触れる。

ドーリィを使いたくてたまらない気持ちと、 使うくらいなら死ぬという気持ちが入り交じった。

少女は期待を込めた瞳で私を見つめている。


私はもう一度、銃を構えた。


「レベル5の妄想なんだよ?それじゃあ私を消せないよ。」


「頼むからもう、消えてくれよ。」


私は再び引き金を引いた。


パキン。


彼女の形をした妄想の耳元にあるマシーン接続機を弾丸が貫く。


彼女はひどくつまらないという顔をして、


「今日はもう、いいや。だけど、アサヌマさんはまた私に会いに来るよ。絶対に。」


そう言うと、忽然と姿を消した。


近くにマシーン本体がポツンと置いてある。


直後、キジマから通信が入った。


「アサヌマさんやったんすねー。おかげで助かりましたー。あざーっす。」


どうやら蛙と蛇が消えたようだ。


私は何やら興奮して話し続けるモニターの中のキジマの顔をぼんやりと見つめていた。


蛙も蛇も、彼女が出したものだろうか。


今はなにも考えたくない。


私は廊下に残されたマシーンを踵で蹴り壊した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る