アサヌマ 3

「(♪)ドリーム、ドリーム、あなたの妄想叶えます。」


ドリィという名前の羊のキャラクターが大量に踊り狂う画面から、軽快なBGMが流れてくる。


画面が切り替わり、ピンポンパンポン、という音の後にアナウンスが流れた。


「妄想視覚型変換機、ドリームマシーンは、適度な時間で定められた規準のドリームルームでのみ、お楽しみください。

また、18歳未満の方の使用は禁止されています。」



気分が悪くなりチャンネルを変えると、妻が部屋から出てきた。

無言で先ほどまで私が食べていた夕飯の食器を片付け始める。


「またマシーンか、よく飽きないな。」


つい、嫌味が口をついて出た。


「貴方は使わないものね。外でもっと楽しいことでもしているから、必要ないのかしら。」


口を開けばこれだ。


「ちゃんとドアは閉めろよ、妄想を公共に漏らすのは取り締まりの対象なんだからな。今日だって…」


片付けを終えたのだろう、妻は私の言葉を最後まで聞かずに部屋へ戻っていった。


***


裸の女の妄想の出所はすぐにわかった。

事故が起きた道路の近くにあるアパートから、わらわらと裸の女が溢れてきていたからだ。


「皆同じ顔してんな。」


このドリーマーは妄想力の貧困な人間のようだ。


女たちの間をすり抜けて、正確には女たちが私の体をすり抜けて、私はアパートの部屋へと踏み入る。


狭い部屋の真ん中には、先程見た同じ顔の女が大量に折り重なっていた。


私は女の山を一瞥し、部屋を見渡す。

乱雑に雑誌や食事のゴミが散乱する一室の片隅にPCサイズのマシーンを見つけると、踵を振り上げてその中心を踏み抜いた。


女は消え、山があった場所には裸の男が横たわっている。

頭部にはマシーンとの接続機を装着しているから間違いないだろう、こいつが発信源だ。

男は間抜けに驚いた顔で、私と壊れたマシーンを交互に見る。


「な、なにしやがる、てめえ!」


激昂する男に私は手帳を見せながら告げた。


「ドリームルームではない場所でマシーンを使うのは犯罪です。署までご同行願います。」


漸く状況を理解した男を車に乗せて、私は職場へと向かう。



昼飯を食べながら書類を整理していると、食事中に見たくない顔がモニターに映った。


「マシーン、壊したそうだな。」


ブルドックが眉間に皺を寄せながら私に言う。


「はあ。」


「はあ、じゃねーよ。スイッチ切れば済んだだろうが。あれはなあ、レンタルマシーンだったんだよ。レンタル会社から苦情が来て面倒なんだよボケ。」


「以後気をつけます。」


「以後ってこれで何度目だと思ってんだテメぇ…」


「以後気をつけます。」


「…ちっ、始末書書いとけよ。」


モニターから不快な顔が消えたので、私は食事を再開した。

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