アサヌマ 2
目覚まし時計の音がうるさく響き渡り、私は目を覚ました。
歯を磨き、髭を剃り、服を着替えてリビングへと向かう。
扉を開けば、焼けたトーストとコーヒーの香りが鼻腔を擽った。
それは、私がロボットではない証拠。
そして、それらが妄想ではない証拠。
妻が食卓に食事を並べている、いつもと変わらぬ朝。
「おはよう。」
声をかけると妻は迷惑そうに私を一瞥し、部屋へと戻っていく。
朝食をとりながらテレビを眺めていると、妻の部屋から微かな声が漏れてきたので私はボリュームをあげた。
私がこぼしたパン屑を小さな丸型の掃除ロボットがすかさず拾いに来るのが視界の端に映る。
クルクルと回りながらパン屑をかき集める軌道の横に唾を吐いてみれば、ロボットはすぐさまそちらの掃除へと移行した。
また唾を吐く。
ロボットはそれを拭き取る。
それを何度か繰り返した後、徐ろにロボットを蹴りあげてみた。
それは少しだけ妙な音を立てただけですぐに起き上がり、新たに落ちた私の足元のパン屑を吸い込むと部屋の中を巡回し始める。
何の気なしにロボットを目で追っていると、妻の部屋の扉が僅かに開いていることに気がついた。
私は中を見ないようにドアを閉める。
「おい、あれを使うときはドアを閉めろと言っただろう。」
少し怒鳴りぎみに声をかけたが、返事はなかった。
「行ってきます。」
玄関に向かいながら呟いても、妻からは相変わらず返事もない。
代わりに掃除ロボットがくるくると回りながら私を見送った。
***
車を走らせていると、前の車が急ブレーキをかけた。
車には全裸の女がめり込んでいる。
ように見えたが、女の姿は数秒して消える。
私は車から降りて前の車を確認したが、車に傷はない。
自車へと戻り、通信モニターのスイッチを入れた。
署内直通の小さなモニターにはブルドッグそっくりな中年、私の上司の顔が映し出される。
ブルドッグは今日も不機嫌そうだ。
「なんだ?」
ブルドッグは耳障りな声で尋ねてくる。
「課長。出勤中に妄想事故が起きましたので、ドリーマーを確保してから出勤します。」
私が答えると、ブルドッグは面倒くさそうに続きを促した。
「どんな妄想だ?レベルは?」
「裸の女です。ぶつかった車に損傷はありませんからレベルは1でしょう。」
裸の女と聞いてブルドッグはニヤニヤと笑いながら言った。
「朝からいいもの見れたじゃないか。」
私は表情を変えずに、「確保に向かいます。」とだけ答えた。
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