27話『終結』
「なぜだ!お前も私のはずだ!なのになぜ、力負けをする!」
「守るものがあるからじゃないかしら!」
「……本当になんなのでしょうかこの状況」
俺とエリーゼは、唖然としていた。四人目のジャンヌは、千三十の体を奪った影ジャンヌと戦い、ガブの味方をしていた。
「ほら!シンスケもエリーゼもぼっと突っ立っているとその首、私に飛ばされるわよ!」
そして、俺達に気が付いた四人目のジャンヌは、生前のジャンヌの様に勇ましくそして、口の悪さがまるで生前そのままだった。
「なあ、エリーゼ、魔法でも、死者の復活なんてできないよな……」
「えぇ……どんなに高位な魔法を使っても、死者を蘇らせようとすると必ず、アンデッド族になるのだけれど、四人目のジャンヌは、明らかにアンデッドとは違う何かよ……」
笑えて来た。ありえないことの連続だったが、今のこのご都合主義の様な状態もそうだが、そんなことより、この世界の在り方なんかというちっぽけなことに悩んでいた自分が、一番笑えてくる。
「何を笑っているの?シンスケ、気色悪い……まあ、その気持ちわからなくもないけれど」
ジト目で俺を睨むエリーゼであったが、今の言葉だけでもわかる。エリーゼは、きっと俺と同じことを考えていると。
「なあ、エリーゼ。俺さ、この世界がなんであろうと、俺達は生きているんだから、抗ってみないか?」
「奇遇ね。私もそう思っていたの」
俺とエリーゼは、今、考えていることが完全に一致していた。だからこそ、もうやることは決まっていて。
「破壊のチャーンス!」
破壊の影ジャンヌが俺達に飛んできてその黒い刃を向けてくるが、エリーゼは、お見通しだったようで……
「あら……なにがチャンスなのかしら?ガブ!」
『やれやれ……契約したばっかりで強制融合とは……聖剣使いの荒い契約者です』
一瞬にしてガブと融合し、マスケット銃の筒で影ジャンヌを思いっきり殴打し影ジャンヌは、勢いよく逆方向に弾き飛ばされた。
『エリーゼは、まず武器の使い方から学ばないといけませんね……銃というのは、殴打するための武器ではないのですよ』
「あらあら、元々の聖剣の使い方をしたのだけれどね」
余裕そうな表情で手に持ったマスケット銃姿のガブとしゃべるエリーゼは、本来の覚悟を取り戻していた。俺も負けてられないと思い自然と呪文を唱えていた。
「『マビノギオン』っと!」
「死んでねシンスケ!」
そして、俺の呪文を唱えている隙に狂った影ジャンヌは、俺の死角から剣を振ってくるのだが、この影ジャンヌは、俺のアドバンテージ知らなかった。
「甘すぎだぞ……こんなの、不意打ちにすらならない」
俺のアドバンテージ……それは、魔力の察知。魔力の流れを理解するものは、誰もが持つらしいが、俺は、長い間、ガブと契約をしていたため魔力察知に関しては、異常に研ぎ澄まされてしまったらしい。
「あれ?当たらない!当たらない!当たれ!当たれ!」
「うーん、勇者的に回避スキルが鋭敏とは……やっぱり微妙だな」
故に直接的な悪意のある攻撃に関しては、目をつぶっていても避けられるのだが、エリーゼの様に一方的な広域魔法とか油断しきっていると避けられないのであまり有効に利用できなかったのだが、まさか、現実世界に戻ってからの方が有効に使えるなんて思ってもいなかった。
「相変わらずチートよね、その魔力察知」
「いや、そんなことはないぞ」
『エリーゼ……所有者様は、自分の才能を卑下しがちなのです。勇者とか、異世界に転生した系の勇者とは思えないほどネガティブの塊なのです』
軽口を叩くエリーゼとガブだが、俺と同じことを簡単にこなしながらしている。やっぱりもっとパッとした力が欲しかった……
「さてと……お寝坊さんたちがお目覚めの様だから、一回会いに行かなきゃ!ごめんね私、ちょっと待っていなさい」
「離せ!」
「そうよ!あなたも私たちと同じじゃない!」
「壊せない!壊せない!」
そんな俺達を見て四人目のジャンヌは、何もない空間から、白い鎖を伸ばし次の瞬間、影ジャンヌ達は、鎖に拘束されてしまった。
異世界でも良く見たジャンヌの得意としていた拘束魔法を展開し、俺たちの所に飛んできた。自然と悪意は、感じず、むしろどこか懐かしい雰囲気だった。
「はあい二人とも、おはよう」
「……私たちがピンチの時に助けてくれてありがとうジャンヌ」
「お……おいエリーゼ!お前、なんでジャンヌに銃を向けている!」
しかし、ジャンヌに向けてエリーゼは、カリブヌスを四人目のジャンヌに向けていた。確かにこいつも、四人目のジャンヌが異質なことを知っていたはずなのに。
「シンスケ……正直に言えば、私に対する反応は、エリーゼが正しいわ。もしかしたら、これが私のバグが、狙った展開なのかもしれないしね。警戒しない方がおかしいの、どんなに魔力察知で私が異質だとしても」
「……そうよ。例え、このジャンヌが、私たちを助けたからって、信じちゃいけない。けれど私だって人間よ。この保険は、できれば、このジャンヌには使いたくはない」
……ここまで、真剣に考えての行動。普通の状態でなら、確かに正しい。俺が、警戒してないのも魔力察知ではなく、個人的な感情の方が大きいからだ。
「……分かった。エリーゼは、確かに正しい。だから、確かめさせてくれ。お前は誰だ」
俺は、こういう状況だからこそ、一刻も早く、確信に近づきたかったからこそ、少し焦っていた。しかし、四人目のジャンヌも察してか、あっさりと自分の正体について明かした。
「私も本質だけで言えば、私達と同じバグ……まあ、バグがバグって生まれた正史の私ね……まあ、四人目が私だったからこそ、私たちが、シンスケたちを襲うために出した人数が自分を含めて三人だったってところかしら」
『つまりエルスダムで没したジャンヌとは違うということですか?』
ガブがジャンヌに聞くのだが、ジャンヌは、面倒そうな表情で頭を抱えた。
「なにかしら……記憶も引き継いでいるし、私は、私だけれど……うーん、説明が難しい」
「……沼男の思考実験ってことかしら」
「スワンプマン?なんじゃそりゃ?」
エリーゼは、聞きなれない言葉では、あったが勝手に納得し、カリブヌスを下ろした。おそらく警戒を解いたのだろうが一体何のことなのだろうか。
「よは、思考実験よ。全く同形状、原子レベルで同一な完全コピーの沼男は、果たして、生前と同じ生き物なのか?このジャンヌは、コピーだけど生前のジャンヌと何も変わらない。主義のよっては、このジャンヌは、生前のジャンヌそのものだし、全く別人のジャンヌともいえる。あやふやな存在……まあ、私は、この子の行動が、自分の味方だと思ったから信じることにしたってとこかしら?悪意も一切感じられないし」
「シンスケの国ってこんなにややこしいばっかり考えている国なの?もっと単純にシャミウス様最高!みたいに単純な方が、生きやすいわよ……」
「いや、こんなややこしいこと考えるのはエリーゼみたいな変わり者くらいだぞ」
俺は、ジャンヌに現代人を誤解されないようにフォローをするのだが、エリーゼは、ムッとした表情になる。
「なによ、人間は考える葦よ。決して私は、変わっていないわ。むしろ、何も考えずに神様最高とかいう輩のが変わっているわよ」
「シャミウス様の悪口?元の世界に戻って、少しは丸くなったと思ったのだけれど、そんなことはないのねエリーゼ」
「はん!死にそこないがなにを言っているのかしら」
……ジャンヌとエリーゼは、お互い買い言葉売り言葉で、喧嘩が始まりそうになる。こいつらは、似た者同士で基本的に仲がいいが、現実主義者と宗教家……考え方の今般に関してだけは、しょっちゅう喧嘩していた。喧嘩するほど仲がいいというか……
「壊しちゃう!」
俺とカリブヌスになっているガブは、呆れた様に二人を見ていると、破壊の影ジャンヌが、拘束魔法をいち早く壊し、エリーゼたちの所に飛び込んでいったのだが……
「邪魔!どっかいってなさい!」
「私なのに空気が読めないなんて!」
エリーゼの撃った魔力弾とジャンヌの光魔法が破壊の影ジャンヌを吹き飛ばし、虚空に消えていき、憎しみのジャンヌに吸収されていった。
「とりあえず喧嘩は、後で!空気の読めないアンタを倒しちゃってから!」
「本当の私は、空気読めるんだからね!」
やる気満々の二人に俺は、どこかで見たことがある光景にため息をつきながらもマビノギオンを構えた。
「お前ら仲良すぎだろう!まあとにかく今は、この状況をどうにかしよう!」
俺達の言葉に答えるように残り二人の影ジャンヌが鎖の拘束を解いた。
「許さない!憎たらしい!憎い!憎い!憎い!」
「見ていてください!シャミウス様!」
狂ったジャンヌは、ジャンヌに黒い剣を振りかざした。ジャンヌは、すかさず白い剣で受け止めた。
「あら、これが、狂った私?神様についてなら、語れそうね!」
「うるさい!私がシャミウス様に付いて語るナ!」
黒と白の剣は、お互いに弧を描くような剣戟が始まる。
「憎い!憎い!なんで!なんで!」
「待っていろ!千三十!今助ける!」
「援護は、任せなさい!シンスケとジャンヌは、思いっきりやりなさい!」
『魔弾は、いつでも撃てます!』
憎しみの影ジャンヌ……千三十を乗っ取った張本人は、今までにないほど激高し俺に剣を振るってくる。
「憎い!死ね!」
「そう簡単には、死なないよ!」
憎しみのジャンヌは、剣を振るいながら、黒いオーラを弾状にし、打ち出してくる。
「銃なんて、あんまり使わないから使い辛いのだけれど!」
『その割に命中率が高いのは、私という武器がいいからなのでしょうが』
しかし、そのオーラは、エリーゼの放った銃弾が、全て撃ち落としたのだった。勢力として、俺達が完全に押していた。
「なんで!なんで!なんで!なんで私たちが押されている!この世界のワクチンは、私が取り込んだはずなのに!なのになぜ押されるの!」
影ジャンヌは、大きな声で叫ぶ、彼女の叫びや訴えは届かず、あっという間に狂ったジャンヌは、ジャンヌにより倒された。
「いやだ!なんでえ!なんでぇぇぇぇぇぇ!」
狂ったような叫びが響き渡る。それが、結果であった。狂ったジャンヌは、黒いオーラとなり、憎しみのジャンヌの元に戻ってきていた。耳に残るような叫びは、呪詛の様にも聞こえる断末魔であった。
「シンスケ!エリーゼ!こっちは、倒したわ!あとは、千三十を助けるだけよ!」
あっさりと倒された影ジャンヌ。残るは、本体、憎しみのジャンヌのみになっていた。
「任せろ!」
俺は、そういうと鍔迫り合いをしていたマビノギオンに強引な魔力を流すと、力いっぱいにマビノギオンを振り、影ジャンヌの持っていた剣を吹き飛ばした。
「なぜだ!なぜ!」
「そんなのは、守るものが有るか無いかの違いよ!」
狂ったように問いかけてくる影ジャンヌに答えるようにエリーゼは、魔弾を放った。魔弾は、真っ直ぐ影ジャンヌに飛んでいき、影ジャンヌに直撃した。
「ぐうぅ!」
魔弾が直撃した影ジャンヌは、勢い飛ばされる。
「そして、これがダメ押しじゃい!『魔よ!掃い払い祓われよ!光の名のもとにその体から離れよ!エクソシスト!』」
俺は、マビノギオンを空に投げ、生前のジャンヌから教わった唯一の解除魔法エクソシストを唱え、影ジャンヌに唱えると、千三十の体から黒いオーラの様なものが飛び出し、空に投げたマビノギオンを手に取る頃には、千三十と黒いオーラが分断されていた。
黒いオーラは、切り離されると、影に半身を飲まれた、ジャンヌの姿のなり、その場に倒れたのだった。
そして、千三十の肉体は、影ジャンヌから解放され、千三十と影ジャンヌは、並んで倒れていた。
「サト!」
「ん……んん……」
ジャンヌは、それを狙って、影ジャンヌから、千三十を保護し、その場から少し離れた。
千三十には、息があるのを確認し俺たちは、安心した。
そしてそこに残ったのは、倒れた影ジャンヌのみであった。俺と、エリーゼは、武器を構え、影ジャンヌを追い詰めた。
「チェックメイト!」
「あら?シンスケ、チェックメイトなんて、カッコつけちゃって、嫌だわ、これだから勇者様は……」
『エリーゼ許してあげてください。所有者様は、もとより少し格好をつける性格なのですから……』
「……人が、こうやって頑張ったのに釘を刺すのはどうなのさ」
俺は、なんというか、頭に上っていた血が少しだけ下に下がり、冷静に二人にツッコミを入れてしまった。
「……なぜだ。シンスケ、エリーゼ。お前らは、この世界を守る義務がどこにある?この世界は、お前らの居た世界じゃないのかもしれないのだぞ」
影ジャンヌは、恨めしそうに俺達を睨んでくる。確かに俺たちは、この世界が本当に自分の居た世界じゃないかも知れないという恐怖に一度は、心が折れてしまった。しかし、そんなことは、もう俺達には、どうでもいいのかもしれない。それは、エリーゼも同じで。
「いい、影ジャンヌ?私たちは、気が付いたのよ。この世界がなんであろうと帰る場所があるのなら守る。それは、異世界の頃から変わらない。私は、異世界では、魔族の世界を守ろうとした」
「俺は、何の関係もないエルスダムを救済した勇者だ」
俺と、エリーゼは、影ジャンヌに言い放ってやったのだが、説明足らずだったのか、ガブは、溜息をついて解説をする。
『はぁ……なぜあなた方は、こうも言葉が少ないのでしょうか?つまり、この二人は、どこであろうと生きていく気概のある雑草根性の強い異世界転生した人たちにはない珍しい変わり者なのです』
……バカにされた感じがあり、俺もエリーゼも少し顔を赤くしてしまうが、その場に伏せていた影ジャンヌは、愉快そうに笑いだす。
「あっははは!なにそれ!おかしい!あんたら本当に人間?私なんかよりよっぽど化け物ね!いいわ、私を『また』殺せばいい!そして、異世界で犯した過ちを繰り返して悔いるといいわ!」
忘れていたが、このジャンヌにも、異世界での記憶があるようだった。だからこそ、生前の自分の最後に記憶を使った恨み節だったが、もう俺たちにそれは効かなかった。
「残念ね。アンタは、私の知るジャンヌじゃない。あの子とは別。ジャンヌを殺してしまったあの時みたいな罪悪感は、今はないわ」
「俺は、お前を守れなかった後悔はある。だから、今度は救う。そのために、もう安らかに眠れ、俺達の亡霊(後悔)」
俺は、剣を振り上げ、エリーゼは、銃口を影ジャンヌに向け、最期の手向け……自分達の後悔を断ち切ろうとした。
「アンタら!ワタシよりよっぽど狂っているわよ!なにが後悔よ!なにが、罪悪感がないよ!そんなの自己完結の正義じゃない!呪ってやる!死んでもアンタらを憎んで憎んで憎んで!絶対に殺す!殺す、コロス、ころす、コロす!」
影ジャンヌは、最後まで足掻く、動かなくなった四肢を動かそうと悶えながら、俺達を睨みつける。その瞳は、諦めないという殺意のこもった目であった。生前のジャンヌに似て、コイツも諦めが悪かった。やはり、このジャンヌも、ジャンヌだった。だからこそ俺たちは、最後に影ジャンヌに言葉を贈った。
「ごめんな、そしてさようなら」
「今度は、ちゃんと謝れる。ごめんね、ジャンヌ。友達だったのに殺しちゃって、生きていたころのあなたは、私の親友だった」
こうして、最期の音と共に影の命は絶たれ、幕引きの様にエリーゼの展開した古き悪しき世界が影ジャンヌと共に水泡の様に消えていく。
そして戦いは、俺達のエピローグは、終わった。
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