26話『世界の不思議』

暗い闇の中。私は、永遠に流れ続ける憎しみの記憶に飲まれないように、楽しい記憶を思い出し、無駄な抵抗をしていると、ふと憎しみの記憶とは、別の何かに話しかけられた。

「……もう、なんでこう目が覚めると、こんな世界にワタシはいるのかしら?」

その何かの形を私は理解できなかったが、今まで見ていた冷たく悲しく、憎い記憶とは違い、どこか温かみのある声であった。

「貴方もジャンヌ?」

「ええ、私がジャンヌよ。えーと?」

「えと……三十木千三十です」

「うん、チーね。分かった」

「いえ、私は、チサトです」

「サト?本当にシンスケの国の名前は、分かりづらい」

聞き覚えのある名前……ジャンヌ……確か異世界で伸介の恋人ですから日本の名前は、難しい……

「って!ええぇぇぇぇ!」

「……うるさいわね。私は、寝起きみたいな状態なの、もっと静かにならない?」

なんというか聞いていた話より冷静と言うかなんというか……シスターさんと聞いたからもっと柔らかい性格と思っていたのですが、なんというか、苦手なタイプかもしれないです……

「えっと、それなら質問です。ここはどこですか?」

「あー、なんというか、説明し辛いのだけれど、ここは、サトの中……精神的世界?ってやつかしら」

私は、さっぱり分からなかった。いや、正直なことを言えばシンスケ達が、異世界から戻ってきたことと言う事実だって、私が、ビキニアーマーで戦うのにも理解に時間がかかったけれど、今回のことが、一番わからなかった。

「サト、理解できないことは、全てエルスダム建国の神、シャミウス様の気まぐれよ」

「うわ……なんかシスターっぽいこと言っていますが、つまり考えるなってことですか?」

「……私は、シスターよ。……ってそんな、シャミウス様のすばらしさを語っている場合ではなかったわ。そうよ本題!」

シャミウス様……おそらく、異世界での神様でしょうか……しかし、一切シャミウス様についてなんて話していなかったような。

「サト!あなたが、どうして、理から外れた獣になったと思う?」

唐突な質問にワタシは少し頭を抱えてしまった。

「……伸介と友達だから?」

「はあ……それなら、サト以外にだっているでしょう。もっと決定的なこと……私は、あの聖剣じゃないから、答え言っちゃうけれど、サトは、バグを消すための免疫……ワクチンとしての役目を課せられたのよ。伸介たちがランダムで転生したのと同じ。物事って実は、結構単純に出来ているのよ」

「はぁ……役目ですか」

さっぱりだった。私みたいなどこにでもいる女子高校生を選ぶ理由がそんな理由だったと思うと少し疑問符が出てしまった。

「ピンと来てないのね……つまり、バグとして出て来た私を倒すのが、貴方の役目、そのために、あんたのワクチンとしての力を貸しなさい」

「貸すと言っても……」

「いい?理からはずれた獣っていうのは、世界のルールから外れてもいい、唯一の例外なの。そのサトの力で私が、一時的に現実世界に出て、あんたをこの薄暗い世界から元の世界に戻してあげる」

戻れるのなら、それに越したことはないのですが、いったい私は、なにをすればいいのでしょう。ガブちゃんが居なければ、私は、ただの高校生なのに……

「……とりあえず、サトの持つ精霊の風借りるわよ」

そう言うとジャンヌは、私の腰に手をかけて来た。同性とはいえ、この恰好は、恥ずかしいのですが……

「顔を赤くしないの、私だって恥ずかしいのだから」

……良かった。ジャンヌさんは、言葉使いは、悪いですが。ガブちゃんよりは、常識があるみたいでした。それに安心していたのも、つかの間。

ジャンヌさんの唇が段々近づきそしてゼロ距離になった。

「んーんんー!」

ジャンヌさんは、慣れた様に私の舌をなめずる様に貪ってくる。空気を吸おうとするといやらしい音が鳴り響く。

「ん……くちゃくちゅ……くちゅ」

「ん……んく……」

何度かの唾液をするうちに私の中にある何かが吸われているような気がしたが、不思議と不快感はなかった。そして、ことがすみ、ジャンヌは唇を離し、口から垂れた唾液を軽く拭いた。

「ふう……ごちそうさま。やっぱり、理からはずれた獣って魔力も精霊の風も規格外の量を持っているのね」

「ごちそうさまじゃなくて!私のファーストキス!」

きっと緊急措置だというのは、分かっていましたが、やはり、そんなことより重要だった自分のファーストキス。しかし、ジャンヌさんは、露骨にめんどくさそうな表情をした。

「なによ……そんな、初めてのキスなんて気にしないの……私だって、初めてのキスは……語るのはやめましょうか。あれは、ノーカンだもの……まあ、ファーズトキスの相手が恋人になった分私は、幸せだったかもしれないけれどそこまで騒ぐことないわ。だって、精神世界だもの。サトだってノーカン」

「全然ノーカンでは……ってジャンヌさん!冗談じゃないのですが、体が光っていますよ!」

そう、私に凄くいやらしいキスをしたジャンヌさんは、なぜか、体が、とても神々しく光っていたのでした。

「まあ、ありがとう。これで一時的だけれど伸介を助けに行けるわ」

「た……助けるって!」

「ごめん説明してなかった。でも今は、シンスケ達がピンチなの!だから、貴方の力を一回だけ借りるわね!」

「ど……どうやって!」

それは、私が、まだ影ジャンヌさんに体を乗っ取られる前にエリーゼに試したこと、精霊の風……魔力を放出するための力を譲渡しようとして失敗したこと。

それをジャンヌさんは、いとも簡単にこなしてきた。

「ごめんなさい。本当は、人間って、持つ物……命以外は、譲渡できるのよ。方法は、体液の交換だけれど……。おかげで、一度だけ魔法でシンスケたちの場所に行けるわ」

体液の交換で私の力を他人が使えることにも驚きましたが、もっと恥ずかしくない方法はなかったのでしょうか……

「あ……なんだかわかりませんが、伸介たちを絶対に助けてください!」

私は、魔法が使えるようになったジャンヌさんに伝えると、ジャンヌさんは、少し意地悪そうに話してきた。

「助けるのは、サト……あなたもだからね。とにかく、現実世界に私は、一足先に行くはね。お化けらしく『精霊よ、我を顕現させよ』」

「お……おねがいします!」

呪文を唱えると、ジャンヌさんは、私の前から、姿を消した。私は、ジャンヌさんの成功を祈るだけでした。

「お願いします……」

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