25話『ヒーローは、遅れてやってくる』
心が折れた。世界の音は、不思議とほとんどが遮断される。
『-----』
ガブが何を言っているかが全く聞こえない。
「---」
「---」
「---」
ジャンヌ達が何を言っているかが全く分からない。なにも聞こえない。彼女たちの口は、動いているはずなのに何も聞こえない。
本当に俺たちは、元の世界に戻れたのだろうか。そんな不安が、俺を包み込む。
「ねえ……シンスケ?私、あんたが、考えていること分かるわよ。私も怖いわ。あのジャンヌ達が怖いんじゃない。自分が怖いの。元の世界に戻ってきたと思ったら、こんな高校生離れしたことばっかりして、それでいて、平然としていた自分が……私たちは、本当に自分なの?」
エリーゼの目には、涙が流れていた。何が起きているのだろうか、これは、なんなのか……考えるが。
「考えるのも、もう億劫だよ。俺たちの存在証明も、この世界が元居た世界だという証明だってできないんだから」
「……そうね。じゃあ、もう死んだ方がいいのかしら私達」
「かもしれないな。なにかやり残したことあるか?」
全てが億劫になる。膨大にある世界。途方もない旅。そんな世界にポツンと立たされた迷子の俺たちは、考えるのも疲れた。
音のない世界。世界は色あせ、モノクロになり、いるのは、俺とエリーゼだけであった。俺たちは、なにも言わずにお互いの手を握る。
偽りかも知れない世界でも感じる確かな感覚を求めて。
「そうね、一つだけ言ってなかったことがあったわ。これは、エルスダムで、ジャンヌと仲良くなった時に話したのだけれど……」
「なんだよ。もったいぶって」
少しだけ、照れるようなしぐさをするエリーゼ。こんな状況でも照れることができるだなんて、エリーゼの芯の強さには、見習わないといけない所を感じた。
「私、シンスケのことが好きよ」
「はは、笑えない冗談だ」
「そう言う事は言わないの。最後くらいは、冗談なんて言わない。本気なんだから。今までは、あんたとは、敵同士だったし、あんたの恋人で私の恋敵のジャンヌは、私が殺した様なものだし考えないようにしていた。けれど、あんたと同じ世界に戻ってきて、実は、少しうれしかったの。最初は、確かに過去の因縁もあったし、自分の気持ちと向き合わなかったけれど。アンタといるうちに、もう昔のことは、置いといて、今の私。真雁エリーゼとしての気持ちを考えたらやっぱり、あんたのことが好き」
人生で二回目の告白。
一回目は、異世界でジャンヌに言われた告白だったが、あの時は、色や、温度、音にあふれていたが、今は違う。
嬉しくも悲しい告白。
「そうかよ。俺もな、ジャンヌが死ぬ時言われたんだ。私が死んでも死は引きずるな。新しく好きな人ができたら、ちゃんと恋愛をしなさいって……俺の心は、ジャンヌに向いていたし、それは、この世界でもそうだった。そもそも、恋人が死んだのに、新しい恋なんてできないって思っていたよ。けどそうだな……でもやっぱり、今の俺じゃわかんねぇわ。だって、この気持ちが、エリーゼに対する恋なのか、友情なのかなんて」
俺は、今の感情を素直に答える。ここで俺がエリーゼを好きと言うのは、簡単だったが、こんな不安定な自分では、彼女の告白に答えるなんて出来なかった。
「あーあ、フラれちったか。結局また私は、負けるのか……、まあ今まで勝ちっぱなしだったし、最期くらい負けっぱなしにだってなるわよね」
エリーゼは、少し残念そうに笑う。けれど、最期くらいは、笑って終わりたかった。
モノクロな世界に千三十の姿をした影ジャンヌ達が刑を執行する刑務官の様に近寄ってくる。終わりの時間だった。
エリーゼは、ガブの融合が解かれ、ただの少女に戻っていた。かく言う俺も、マビノギオンが解けただの高校生であったのだから大差はない。
「---」
影ジャンヌの二人が俺達を押さえつける。そして、黒剣を振り上げる三人目のジャンヌ。
さて、これで俺たちの物語もバッドエンド。
目をつぶり、死を覚悟する。
しかし、数秒経っても無は、訪れない。俺たちは、驚き目を開けた。
そこには、居るはずのない四人目のジャンヌ……千三十の姿ではなく黒髪ロングで良く見知った姿のジャンヌが黒剣を、白い剣で受け止めていたのだった。
瞬間、世界の色や、音、すべてが元に戻った。
「揃いも揃って、情けない!今は、そうやって迷っている場合!?」
「……うそだろ」
四人目のジャンヌ……彼女は、紛れもなく、俺達の知るジャンヌだった。バグと言う狂ったジャンヌではない。
「嘘な訳ない!私は、シンスケの恋人だった人ですよ……神に召されて眠ろうと思ったのにこんなんじゃ、おめおめと寝てもいられないわ!」
「なぜ!私がいる!えぇい私達!もう、いたぶるとか考えないで、シンスケとエリーゼを殺せ!」
あまりの事態に影ジャンヌは、今までにない慌て様に自らに命令を下そうとするが……
「ガブ!何も考えず、魔力放出!」
「……あぁ!なにがなんだか分かりませんが、後悔しないでくださいよ!暴力初心聖女!」
人間の姿に戻っていたガブは、過去に聞いたことのあるような憎まれ口をたたきながら放った魔力は、台風の様に強い風を出し俺達は、影ジャンヌの拘束から強引に解放された。
「……シンスケ。嘘じゃないわよね」
呆然とつぶやくエリーゼ。現実で起きていることに頭がついて行っていないのか俺に聞いてくる。
「……俺が分かるのは、アイツが俺の好きな女だったってことくらいだ」
そう、強引な戦い方に加え、聖女とは思えないような口の利き方は、まさしく俺の知る、バグでは無い本当のジャンヌだった。
一体何があったのか理解ができない。しかし、体は、動けと言っていた。
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