23話『エピローグの続き』

三日後、平日の昼下がり、まっとうな高校生なら授業を受けている時間だったが、俺とエリーゼは、学校をさぼり、廃工場に向かう支度をしていた。

ガブは、この三日間、千三十がいないことが騒ぎにならないように、魔力を行使し、裏方に回ってもらったため、影ジャンヌの対策をしっかりとすることができた。

「……なんだろうな。エリーゼとの決戦の前夜を思い出すよ」

「奇遇ね、私もあの日の前日の気分だわ」

俺達は、異世界で何度もぶつかり合った敵同士であったが、最後の戦闘。魔王の城への侵攻作戦の時のような緊張感があった。

「エリーゼもか……なんだろうな、凄く自分勝手だが、知らない奴を守るために戦う戦いなんかよりよっぽど気が引き締まる。俺は、自分勝手なのかな……」

「そんなことないわ。人間ってそれくらい愚かなくらいがいいのよ。魔王様も言っていた。自分のことを大切に出来ない生き物は、自分以外も大切に出来ないって」

いたって真面目なエリーゼだったが、こういう時は、もっと肩の力を抜かないといけない。自分の肩の力を抜くためにも、まずは、エリーゼの肩の力を抜いてやることにした。

「はー、あの冷徹男にもそう言う感情があったんだな」

「はーん、そうやって言うけど、伸介だって、同じじゃない。人間を殺したか、魔族を殺したかの違いでしょ」

嫌味をいつもの言うエリーゼだったが、なんだかおかしく感じてしまい、俺は、笑いがこぼれてしまった。

「そうなんだよな……もっと俺は、平和な解決をするべきだったのかもしれないな」

「あら、張り合いがないじゃない。いつもの威勢は、どこに行ったのよ」

「事実は、認める。だけど、俺は、謝らない。俺は、ジャンヌを殺した魔族が憎いから、これは、どれだけ、お前と仲が良くなってもきっと変わらない」

「そんなの私だって、自分の部下を殺された恨みは、忘れない」

お互いににらみ合うが、なんだかおかしくなってしまい、俺達は、噴き出してしまった。

「あははは、なによ、良かった。まだまだ、全然元気あるじゃない。恋人の姿をした敵と戦うから緊張でもしているのかと思ったわ」

「俺だって、親友の姿をした、相手と戦うエリーゼは、緊張でもしているかと思ったら、そんなことはなかったな」

どうやら、俺達はお互いの心配をしていたらしいくなんだかおかしかった。

「ねえ、ポンコツ人形が来るまで喋らない。黙っているとどうしても、ジャンヌの顔が浮かぶの……緊張と言うより、覚悟が揺るいじゃうの」

「そうだな、そうしたら、エルスダムに転生する前の話でもしてみるか?」

「そうね……そう言えば、お互いに同じ世界から転生なんて思ってなかったからその話はしてなかったわね」

そう、お互いにエルスダムに転生してから、自分たちの転生前の話なんてしていなかった。異世界があったのだ。まさか同じ世界から転生するなんて思っていなかったからと言うのもあった。

「そうだな。エリーゼは、どうだったんだ?転生する前」

「……私からなのね。別にシンスケから話してもいいのに」

照れくさそうに頭を掻くエリーゼだったが、ぽつぽつと語り始めた。

「そうね……私は、友達なんていなかった……と言うかいらなかったわ。昔から、なんでもできたし、ママは、海外のトップデザイナーで、パパは、海外でも有名な日本の宝石商だったから、お金にも困らなかった」

「……どこのお嬢様ですか?羨ましい」

「全然羨ましくないわよ。人って、異端にはきつく当たるの。小学校の頃は、いじめられて、友達がいなかった。だから、中学の頃に仕返しで、いじめた奴らの弱みを握って、社会的に抹殺したら、今度は、怯えられて孤立したわ」

さも当たり前のように語るエリーゼだったが、やっている事がえげつなかった。

エリーゼは、敵対してからと言うもの、徹底的に準備をしたうえで挑んできていたが、それは、昔からだったのかと思うと、徹底的に潰そうとされた俺は、肝が冷える。

「だから今度は目立たないように高校生活を送ろうとしたら、異世界転生しちゃったし……正直良いことなんて何もなかったわ。だから、初めて、現実世界でできた友達のチサトは、絶対に救う」

「肩に力が入っているぞーエリーゼ」

しかし、責任感のエリーゼは、意識ないうちに肩に力が入っていた。異世界で身に着けた技能に、無意識行動から、相手の精神状態を読めるようになったが、異形の多い魔族に使うことは、あまりなかったのだが、初めて役に立った。

「ごめん。やっぱり、私は、語り手より、聞き手の方が向いているみたい。シンスケの話でも聞いて落ち着こうかしら……」

ふと言うエリーゼだが、ハードルを上げるのはやめてほしい。特に面白い話なんて、俺にはないのだから。

「そうだな。俺の両親は、民俗学者。昔は、一緒に世界を飛び回っていたが、ある時、アフリカの奥地で原住民の子どもと友達になったりした普通の男の子だったぞ、俺」

「なにそれ!シンスケの話なんてたいして期待なんてしてなかったのに出だしから凄くネタ満載!?」

驚くエリーゼだったが、そんなに驚くことなのかと俺は、思ってしまう。

「その時に聞いた話なのだが、その部族では、鉄を神として進行しているらしくて。昔、剣から姿を変えた神が部族間の戦争を止めた伝説があるんだぞ」

「なにそれ!武器が、人になるなんてありえない……ありえなくないわね。身近にいるし、ポンコツ人形みたいな規格外な武器とか……」

エリーゼは、驚いた様な表情をしたが、一瞬にして、ガブの顔が浮かんでか、サンタの正体を知ってしまったような子どもの様に残念そうな顔をしていた。

「……そうなんだよ。この伝説の裏には、ガブを作ったエルスダムの女神が絡んでいたりして、俺もガブから、この話を聞いたときがっかりしたよ。伝説って意外と真実は、どうしようもないことだったりするんだよ」

「本当にどうしようもないわね」

「まあ、こんな伝説ですら、あっけない結末だ。俺たちが供することなんてもっとちっぽけなことだし。そもそも俺達異世界では、世界の覇権を巡って戦った俺達が手を組むんだ、怖いものなんてないだろう」

「あはは、そうよね。よろしくね、勇者様」

「よろしく、魔族の大魔導士様」

俺達は、戦闘前では、ありえないであろうくらい和やかな雰囲気になっていた。そんな中に、ガブが、疲れたような表情で、俺達の所に戻ってくる。

「……おふた方、私が、辛い思いをしている間に、とても仲良くなっているようで」

「馬鹿じゃないの!私がシンスケと仲がいい訳ないじゃない!これは、特に意味のない会話なのよ!」

「意味のない会話なんてないのですよ……。私は、所有者様との会話を一個も忘れたことはないです」

ジト目で俺達を睨むガブ、この三日間の隠ぺい工作は、大変なものだとは、聞いていた。ガブは、大量の魔力を使って、千三十に化けて、日常生活を過ごし、普段聞きなれない現代の授業を受たりと苦労は多かったらしい。

「ガブ……そんなことは、どうでもいいが、今日の調子は、良さそうか?」

「もちろんです。戦闘の準備は、完璧にこなしておきました。もう、絶対に所有者様を傷つけないようにする自信があります」

「……ポンコツ人形。一応今日までは、私が、契約者なのよ。なんで、私は、守る対象に入っていないのかしら」

呆れたように、ガブにツッコミを入れるエリーゼ。普段ならもう少し怒っているようなツッコミを入れるのだが、今日はいたって冷静だった。

「何を言うのですか、貴方が身に着けるのは、異世界最強の聖剣ですよ。傷つかないのは、当たり前です。それとも、魔族の幹部は、謙虚なのでしょうか」

「はん、言ってくれるわね、自称聖剣の聖銃さん」

「銃のことは言わないでください。女神様になんと言ったらいいのか……」

エリーゼとガブは、お互いに憎まれ口を叩きながらもその結束は、昨日今日で結ばれたようなものではなかった。

「でもそうね……聖剣のポンコツ人形が、カリバーンって呼ばれるなら、聖銃状態のポンコツ人形の名前も決めてやらなきゃね……」

「はあ……名前とは、私は、もう所有者様に付けてもらったガブと言う名前が気に入っているのですが」

……真顔で言うガブだが、俺が、この聖剣にガブと名前を決めた理由は、咬まれた時の擬音で良く使われる音のガブが由来なので本人のことも思い、今度は、真面目な名前を提案してみた。

「カリブヌスなんてどうだ。この世界でガブみたいな聖剣、エクスカリバーの姉妹剣みたいな奴からとったのだが」

「カリブヌスですか……いいですね。ちゅうにごころ?が騒ぎます」

「良いじゃないかしら。シンスケにしては、ちゃんと付けているじゃない」

二人の了承を得た俺は、聖銃モードのガブをマビノギオンとし、廃工場に行く時間も迫ってきていたので、二人に声をかけた。

「さてと、時間も近づいてきたし、準備はいいかお前ら」

「もちろん、まあ、不服なのは、シンスケが先陣を切っているのは、気にくわないけれど、文句は言っていられないわ。今回は目的が一緒なのだもの」

「宿主様から借りた、打ち切りの漫画の最終ページみたいで、私は、そそられますのでここは……『べ……別にあんたの為なんかじゃないんだからね』と言うのがベストでしょうか?」

エリーゼは、これから始まる戦いの覚悟を、ガブは、いつもと変わらない、メタっぽいギャグをかまし、異世界でのエピローグの続きを始めた。

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