21話『ビキニアーマーと脅迫』

そして、次の日の学校、いつもの昼闇の屋上、珍しく千三十が、来ないので俺もエリーゼも心配していた。

「来ないわね……チサト」

「どうしたのだろうか?昼ご飯になると一番最初にここに必ず来ていたのにな」

昼休みも終わりがちか図いてきていたため、俺達は、少し不安になっていた。普段ならすぐに返ってくるはずのメールや折り返しの電話もなく、俺達は、弁当を開けずに待っていた時、屋上の扉が開いたのだが、そこにいたのは、大粒の汗を額から垂らしたうちの学校の制服を着たガブであった。

「所有者様!宿主様が……宿主様が……!」

「ガブ!?なんで学校に!?それに千三十がどうしたんだ!?」

「チサトがどうしたのよ!ガブ!」

ガブの慌て様は、尋常でない。この異常は、エリーゼにも伝わったのか、いつもの嫌味の様な呼び方ではなかった。

「宿主様が影ジャンヌに連れ去られました!私……私……何も……できなくて……」

「けどアンタが居たら、チサトが攫われることなんて……」

そう、影ジャンヌ……バグが出るときは必ず人払いの結界が発動するはずなので俺達でも感知できるはずなのだが……ガブは、その時の状況を話し始めた。

「お昼休みになる前、授業が終わった宿主様が、屋上に向かう前、見知らぬ人から校舎裏に呼び出されて、言ったらそこにいたのは、人払いの結界を張らない状態の世界で、影ジャンヌが現れました!」

「待て、結界が張られていないって!」

「言葉の通りです。影ジャンヌは、ここの学校の生徒を人質に言う事を聞かないと、人質の命はないといって、宿主様は、私と、契約を解除して連れていかれて……私……無力で……」

話すたびにガブの目からは、涙があふれてきていた。人間らしくなっていたが部に動揺していたが、俺と違い、エリーゼは、全く動揺していなかった。

「分かった。けれど、あんたの判断は間違っていない。私も同じことをした」

「な……!エリーゼは、宿主様が心配じゃないのですか!」

普段とは、対極な立場に立つ二人。ガブは、エリーゼの態度に余計に戸惑いを隠せずにいた。

しかし、エリーゼも感情が無いわけではなく……

「私だって、心配だけれど、慌てても解決はしないもの。むしろ、貴方の判断で、人質は助かったのでしょう。それなら、対策の考えようはある。なにか影は言っていなかった?」

「……紙を渡されました」

ガブは、一枚の紙きれを手渡してきた。その紙には、わずかな魔力と、どこから手に入れたのか、精霊の風を感じる。おそらく、エルスダムでは、主流だった、ビデオメールの様なものであった。

「ガブ……開いていいか?」

俺は、恐る恐る、ガブに聞くと、無言でうなずいた。

「……エリーゼ、少し強引でもいい。古き悪しき世界を展開してくれ、なにがあるか分からない。それに、関係ない人に見られたら、弁解のしようがない」

「分かったわ……呪文全省略。『古き悪しき世界』」

世界が、落書きのような世界に書き換わったことを確認すると俺は、ガブから手渡された紙を開く。その瞬間、紙は、発火し消えてなくなる。そして、それと引き換えに紙の燃えカスが形を影ジャンヌの形を構成する。

『みんなコンにちわ。みんなのアイドルジャンヌさンがでございます!驚いた!?ヤッホージャンヌだよ!今日は大事なことを伝えようと思って連絡したよー!』

「不愉快ね」

「全くだ」

ジャンヌを構成した、灰は、愉快そうな口調で、話し始めるのだが、死んだ恋人を冗談みたいな狂ったコピーに俺は、不快感を隠せなかった。

『ハイハイーみんなそう言う怖い顔しナーい!良いかしらーぁ!私の目的は、簡単!勇者に魔族の救世主様ニは、死んでもらいたいだけデス!』

俺達感情をもてあそぶセリフ。影ジャンヌは、明らかに俺たちの知るようなジャンヌではない。

「……なんで私たちに死んでほしいのかしらね。まあどうせ、この紙くずは、私の思考を先読みでもして、答えてくれるのだろうけれど」

エリーゼも、現代に戻ってからは、見せていなかった純粋な殺意が入り混じった顔を見せていた。

『えーとねなんデ死んでホシイカはね……ようやくゆがんでくれた世界をアンタたちは、正す力ヲ持っていたかラデス!そうね、バグ的にいえば、君たち、帰還者たちは、この世界の免疫の様な存在デスな訳でありまして、世界を歪めるために来たワレ々敵には、消えてほしいの!もっと崇高な理由があると思う?ないなイ!』

「不愉快だ。しかし、なぜ、コイツは、千三十を攫ったのか」

『と言う訳で、私は、この世界にワタし達と同じく、世界のゆがみにて生まれて来たしサトちゃんを取り込んデ、バグの欠点、知恵を手に入れる!依代として彼女は、じゅウぶん!こうしてわたしハ、完全な生命体になりまス!』

あまりにも身勝手な理由だった。それだけのために、コイツは、千三十を攫った。都合が悪い俺達を消したいために……あまりに短絡的で、狂った理由。

『と言う訳でー、三日後二、町はずれの廃工場に集合―。安心して!チサトちゃんは、私が責任を持って生かしておくからあ!まあ、この日に、来ないとチサトちゃんハ、殺しちゃいますけどねぇーあははは!では、アでュー』

そう言い、影ジャンヌの形を模した灰は、崩れ落ちていった。どうやら、ジャンヌの伝えたかったことは、これだけだったらしく、エリーゼは、古き悪しき世界を解除した。その証拠に、空は、元の色に戻った。

「どうしよう。物凄く腹が立つが一つだけ分かったことがある。アイツは、ジャンヌじゃない、ただの敵だよ」

「あら珍しく意見があったわね。私もそう思うわ。ジャンヌは、見ていて、あんなに腹ただしいなんて思わないもの」

俺とエリーゼの意見は、一致していた。それは、もう影ジャンヌに対して、一切の容赦もしないということだった。

「ありがとうございます!お二人とも!」

ガブも俺たちの話を聞いて、少しだけ、曇っていた表情が晴れたのであった。


こうして俺達は、打倒、影ジャンヌに踏み切ったのだが、一つだけ問題があり話し合いは、時間が進み、五時間目の授業は、サボることになっていた。

「けど、私たちに影ジャンヌを倒せるのかしら。私たちは、魔力の使用に大きすぎる制限があるわよ」

そう、問題は、そこだった。魔力があったとしても、精霊の風が一切ない現代では、俺達は、一般の高校生とほとんど変わらないのだ。

対して、影ジャンヌは、話から推測すると、三日後の影ジャンヌは、何らかの形で、理からはずれた獣である千三十を依代として使い魔法を一方的に行使し、俺達を殺しに来る。

このままでは、完全なワンサイドゲームとなってしまうのだ。

「なあガブ、例えば、俺がガブと再契約したら、影ジャンヌは、倒せるのじゃないか?」

俺は、ふと思ったことをガブに提案してみるのだが、ガブは、残念そうな表情をしている。

「そうですね……契約自体は、可能ですが、私が、強引な魔力放出で使える魔法は、宿主様の様に特殊な方でないのなら、結界の外で使うのなら完全な大技一回が限度です。ゴブリンの様な、低級モンスターのバグでしたらいいですが、ジャンヌさんのバグです。それじゃ倒しきれないと思います」

魔法一発分か……あまりに少ない。どんなに俺が、本気を出しても、相手に大きすぎるアドバンテージのある戦場では、勝てないのだ。

「そうよね……大技一回分。準備万端の影ジャンヌを倒すのは、無理ね……せめて、私が古き悪しき世界を使えれば、一定時間は何度か魔法が使えるはずなのだけれど……」

エリーゼは悔しそうに、つぶやく。

……しかし、俺は、異世界に居た頃では、思いつかなかったであろうことを一つだけ思いついてしまった。

「なあ、ガブって契約者に条件とかあるのか?」

「いえ……ただ、大量な魔力を持っていて、私の持つ魔力量に耐えられる方なら、基本的には、仮契約になりますができます。本契約は、やはり、宿主様や所有者様の様に適正は、必要になってきますが……何をいまさら聞いているのですか所有者様?」

そう、ガブは、聖剣である。契約者が、俺や千三十がいてこそ真価を発揮する。現代でガブの真価を発揮できるのは、理からはずれた獣である千三十のみである。

そして俺は、精霊の風の吹かない現代日本では、大魔法一発が限度。しかし、俺の使える大魔法では、恐らく影ジャンヌには有効打にはならないだろう。

しかし、エリーゼは、一発の大魔法……古き悪しき世界を使えば、自分たちの有利な場所に空間を書き換えられるのだ。しかも、完全な状態で……つまり。

「なあ、エリーゼとガブが仮でもいいから契約を結べばいいんじゃないか?」

「「……」」

世界が固まったように見えるが、実際に固まっているのは、エリーゼとガブだけであった。

そして、二人の時は、動き出す。

「いやいやいやいや!ありえない!このポンコツ人形と私が!契約!?ありえない!だって、私は、魔族だったのよ!」

「そうです!私にだって、契約者を選ぶ権利はあります!こんな金髪ヤンキー女と契約なんてしたくない……もとい出来ないです!」

二人ともそれぞれの悪口と否定ではいる。まあ、そうだろう。ここは、もうエルスダムでは、無いので争う必要はないのだが、それを抜いてもこの二人は、仲が悪い……はずだが。

「いや、お前ら実は、仲いいだろう。息ピッタリだし」

「だから!」

「ありえないです!」

息ピッタリじゃん……もしかしたらだがこいつら、同じような立場なら、仲いいんじゃないかと思ってしまうほど。

「……けど、ガブは、契約できるだろう。エリーゼは、魔力も、そんじょそこらの女子高校生よりあるし、魔力操作に関しては、俺以上だぞ」

「……おそらく。魔力性質的に契約には至れないでしょうが、仮契約でしたら……残念なことに可能です。しかし!契約するなら、同じ立場の所有者でもいいじゃないですか!」

「エリーゼには、空間魔法の最奥でもある、古き悪しき世界がある。あの世界を生成すれば、この世界にはない精霊の風を生成することもできる。しかもガブがいれば、今迄みたいな不完全な状態ではなく、完全な状態で展開できるだろう」

「く……論破できないのに私の心は、この糞勇者の理論を論破したがっているわ」

論破しないでほしい、せっかく見つけた活路でもあるので。

「……本当にするのですか?」

不安そうな表情のガブ。おそらく、契約できるかと言う心配ではなく、自分のプライドを守るための再確認であるがここは、俺達の人命にかかわる問題であるので、しっかりと答えるべきであった。

「しないなら、恐らく、俺もエリーゼも千三十も死んでしまうぞ」

「……今回だけです」

ガブは、そう言うと自分の体を元の聖剣の形に戻した。こうしてガブが折れたことによって、エリーゼも頭をかかえながらもガブに近づいた。

「はあ……本当にやるのね、シンスケ……。いいの?ガブの力を手に入れた瞬間にし伸介を殺してしまうかもしれないのよ」

「大丈夫、エリーゼは、そう言う卑怯なことはしないことは、知っている。お前のことをこの世界で、一番知っているのは、俺なんだから」

「馬鹿……。そう言うキザなセリフはいたって私は、揺るがないんだから」

エリーゼは、そっぽを向いて、表情は、見えなかったからか、俺は、少し恥ずかし感じてしまう。

「うるさい!俺だってキザなセリフを吐いたつもりなんてない」

「そっ……でポンコツ人形。契約ってどうするの?」

「私の刃に、一滴血を流して、刀身を一度触ってくれれば、後は、私の仕事です」

聖剣状態のガブの表情は、読めないが、本当に嫌々なんだろうなと分かる声音ではあった。

今度、可愛そうだから、何か買ってやろう。

「まずは、血ね……んッ!意外と痛いのね、これ」

エリーゼは、右手の親指に自分の歯で傷つけ、流れる血をガブに垂らした。血は、ガブの刀身にかかったが、その血は、一瞬で蒸発した。

「血液によるDNAデータ、読み取り完了。次は、私に触れてください、エリーゼと私の生体反応を繋げます。つなげる際に大きな声で何か叫んでください」

「さ……叫ぶ必要は、あるのかしら?ここ、学校の屋上なのだけれど」

「叫びます。所有者様は、契約のさい大きな声で、がんばれプリキュ●―!と叫びました」

「うわぁ」

「嘘だぞ。俺の契約時にがんばれプリキュ○なって言っていないぞ」

あの時はなにがなんだかわからず、いきなりガブにかまれて叫んでしまったが、叫びは、別にいらないとあの後ガブに教えて貰っていた。

「ポンコツ人形アンタね……そう言う嘘を簡単につかないの」

「……気の利いたジョークです。さっさと、触ってください。このスタイルは、全裸のような気分なので私も恥ずかしいのですよ」

「あー、はいはい。気の利いたジョークありがとう。ほら、触ったわよ」

「パスを承認しました。コネクトを開始いたします……はぁ」

ガブは、契約を始めたのか、エリーゼがガブから発生したまばゆい光に包まれる。

「あ!どこ触っているのよ!ひゃうん!」

「どこって、それは、エリーゼの魔力回廊です。決して、卑猥ではないです」

「だからって!あうう!」

……神々しい光の中では、なにが起きているのかは、想像したくはなかった。だって、これ一応エルスダムじゃ、格式の高い儀式のはず。

この儀式は、悶えるような痛みが魔力回路を走るはずであるので、こんな、お風呂場から聞こえるような黄色い声は、聞こえるはずがないのだが……

そんなことを考えているうちに光は消えていく。

「あれ?ガブ、エリーゼ……お前達……」

光から現れたエリーゼは、俺や、千三十と違い、ガブは、剣の姿ではなく黒いマスケット銃に紫色のこれまた、きわどい紫色のビキニアーマー姿で現れた……千三十の時よりスタイルが良いからか、目のやり場に困る。

「ちょっと……シンスケ何か言いなさいよ!目をそらされる方が恥ずかしいわよ!」

「……ガブさん?あなたわざと、こういう鎧を選んでないか?それに、なんで剣じゃなくて銃に姿が変わっている?」

『そうですか?基本的には、その方の魔力性質と私の趣味で鎧が生まれるので、それに今回は、宿主様が戻ってくるまでの仮契約ですので、こういった姿になりました。私の姿が、銃なのは、正直自分でも驚いています。』

ガブは、淡々と答えるが、俺がちらっと見た感じの印象になってしまうが、ビキニアーマーと言ってもほとんど大切な所が申し訳程度に隠れているだけで、ほとんど下着の様な格好であり、このまま、普通に表を歩けば、職質は、確定な格好なのであった

それに、聖剣のはずのガブがマスケット銃になっている。本人も驚いているが正直、そこまでじっくりとエリーゼを見られない。

「だから、シンスケ!逆にみられない方が恥ずかしいの!私を見て!」

あまりの恥ずかしさから、エリーゼのセリフが痴女の様に聞こえてしまうが、彼女のお願い通り改めて、その恰好を見る。

「うわぁ……」

「なによ!人の恰好を見るなりそのリアクション!」

『エリーゼは、痴女と所有者様は言いたいのではないのでしょうか』

「うるさい!私だってもっとまともな格好を望んでいたのに!こんな格好じゃ見えるわよ!それにポンコツ人形もどうしたのよ!その姿!」

『私も、聖剣なのに銃になるなんて、恥ずかしいです。すべては、こんな卑猥なビキニアーマーを出すエリーゼが悪いです』

「ブチ壊すわよ」

『なんですか?今すぐエリーゼを殺すことだってできますよ、私は……』

また二人は、喧嘩をしそうだったので、俺は、二人の間に入り話題をそらす。

「で、どうだ?二人とも、古き悪しき世界は、まともに発動できそうか?」

「……そ……そうね。これだけ規格外なら、確かに法則を捻じ曲げてでも魔法は、打てそうね……と言うか、こんな魔力の塊と魔族が戦争していたかと思うと頭が痛くなるわ」

エリーゼは、なんとも言えないような表情で、頭を抱えていた。

『大丈夫です。私が保証します。これなら、あの気味の悪い世界を発動しても問題はなさそうです』

エリーゼ達の発言は、力強いもので、希望が持てるものであった。こうして、俺達は、三日後に控えた影ジャンヌのとの闘いに万皇子して臨めるはず。

「でもやっぱりこの恰好になるくらいなら、もっと他の方法ないかしら……、まあ、ポンコツ変態人形のセンスもお察しだし気にはしないのだけれど」

『いえ、痴女のセンスが、皆無なだけです』

「アンタ覚えてなさい、影ジャンヌ倒したら、折ってやるのだから」

『おやおや、ギャルゲヒロインとは、思えないような発言ですね』

「はあ!もう今すぐこの剣折る!」

『なんですか?八つ当たりはやめてください』

……大丈夫かなこのパーティー。どうしよう、もう不安しかない。


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