20話『変態聖剣』

 結果から言えば、千三十が精霊の風を結界の中で充満させることはできないかったため、魔法は、使えなかった。

「はぁ……提案しておいて結局できないなんて」

夜も更け、ガブと千三十を近くまで送るため、俺達三人で外に出ていた。エリーゼは、もう少し考え事があると言い、そのまま自分の部屋に帰って行った。

「落ち込まなくていいぞ。……千三十は、十分やってくれているんだから」

提案した千三十が一番落ち込んでいたが、そもそも、巻き込まれただけの千三十がここまで真剣にバグ騒ぎの問題について考えてくれているだけでも俺はすごいと思う。

「ですが……ええ!」

悲しそうに目を伏せる千三十。ガブは、千三十の手を握ると笑顔でその手を引っ張った。

「宿主様ぁ!前向かないと転んでしまいますよー!」

「が……ガブちゃん!転んでしまいます!」

「何を言っているのですかー!こうやって、悲しそうな顔をするよりましじゃないですかー!」

ガブは、千三十の手を引っ張り、楽しそうに走る。千三十は、最初は、転びそうになっていたが、前を向き始め、転ぶ心配もなくなったので、俺は、一言だけ、声をかけておく。

「おーい!転ぶなよぉー!」

「あはは!大丈夫ですよー所有者様!」

こうやって、ガブを見ていると、成長したなと思ってしまう。そう、会った頃なんて、今のガブを見ていると想像もつかないほど酷いものだった。

 あれは、異世界に初めて飛ばされた場所、ガブが眠っている湖で、女神にガブを託された時の話だ。

『タスク確認……聖剣カリバーン起動。契約をいたしましょう。所有者候補様』

『所有者?契約?何じゃそりゃ?』

神秘的な夜の湖、光精霊が蛍のように舞う中、一本の剣が自動音声の様に話し出す。

『……では、私の刃の部分に軽くで良いです。で触れてください』

『いや?なぜ、そんな痛そうなことをしないといけない?俺が、あの女神に願ったのは、元の世界への帰還だぞ』

当時の俺は、いきなり異世界に来たと思ったら、自称神が、適当な世界説明をしたと思ったら、藪から棒に剣を地面に突き立て去っていったことに少し怒っていたからか、態度は最悪だった。

『これは、帰還のためにも必要です』

『必要って……』

俺は、あまりの超展開について行けずに少し剣の刃に触れるのを躊躇しているとガブ……当時は、まだ、名前も付けていなかったので、聖剣カリバーンは、淡々と代案を提示してきた。

『刃に触れるのは、恐ろしいことですか。かしこまりました、では、人間の姿に疑似転換いたします』

聖剣カリバーンは、そう言うと、光に包まれ、そこにあった剣は、なくなり一人の少女が、全裸で突っ立っていた。

『いや……だから……ぶえええ!へ……変態だあぁぁぁ!』

『私は、変態ではなく、聖剣カリバーンの仮想肉体です。では、契約です。指を出してください、少し傷をつけ、所有者候補様の血液からデータを取ります』

まごうことなき変態であった。しかし、聖剣カリバーンのあだ名、性剣はもうこの時にできていたのかもしれない。

『あの……性剣さん?あの、なんで、俺の指を触って……』

『ガブっ……!』

そして、聖剣は、いきなり俺の指に噛みつき、血を啜り始めた。

『ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁ!』

人生で一番痛かった噛みつきで、指がもげると思った。

まあこうして、あの時、俺とガブは、契約を結び、数々の戦場を渡り今の関係になったのだった……

しかし、感情が生まれたガブなのだが今となっては……

「所有者様?どうしました?なぜかものすごく感慨深い表情で、私を見つめられても、私があげられるは純潔だけですよ」

ただの変態な性剣である……俺、ガブになにか悪い影響与えたかな?

「が……ガブ!だから、そう言う事は、言わないって約束ですよ!」

恥ずかしがる千三十だが、ガブは、全く恥ずかしがる様子はなく、むしろ当然の様に胸を張って言う。

「ルールは、破るものです!はじめて膜を突き破るようなものみたいなものです!」

「……ガブは、変わったな」

……やっぱり当時のガブからは、想像もできないような発言が多く、変化が、俺にはうれしく感じるのだが、そんなことをガブは察することもなかった。

「変わっていませんよ?そう感じるのは、私に様々な初めてを教えてくれた所有者様のおかげです」

誤解を生むような、発言だが、俺が、教えたのは、遊ぶと楽しいことや、ご飯はうまいなど当たり前なことばっかりだ。決して、プラトニックな関係にはなっていない。

「伸介……ナニを教えたのですか?」

「健全ですから安心して、千三十さん!」

千三十が変な誤解をしてしまい誤解を解くのに苦労しながらも長い一日がこうして、過ぎていくのであった。

これが、災厄の始まり前最後の日常とは、この時は、考えずに。

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