18話『最悪再会』
俺達は、ガブと千三十と合流し、日が完全に沈み、昼の喧騒がどこかに行った帰り道を歩いていた。
「残念でした……まさか、なにも収穫がないとは」
「まあ、一日目ですから……これからですよ!ガブちゃん」
落ち込むガブに慰める千三十。どうやら、ガブたちの方も成果はなかったらしい、それは、俺達も同じなのだが。
「まあ、簡単にバグが出られても困るわよ……。落ち込まなくてもいいんじゃないポンコツ人形」
「……エリーゼの癖に私を慰めるなんて生意気です」
ジト目でエリーゼを睨むガブだが、どこかその眼力には、力がなかった。
「まあ、そんなにしょっちゅうバグが出られても困るし、今日は、こういう結果だったでいいと思うぞ、俺は」
「むう……しかし所有者様、私は……道具としては、エリーゼが言うようにポンコツだったみたいです」
珍しく、弱気なガブであったのだ……初めて見る訳ではない、むしろ、ガブは、感情的な性格で、顔に考えていることが出てくるタイプであった。
「まあ気負うなって……!おい!みんな気を付けろ!何か来る!」
ガブを慰めようとした瞬間、体を突き抜ける、不快感。全身を蛇に巻き付かれたような魔力の反応である。
俺は、慌て、声をかけるが千三十以外は、もう気が付いていた。
「……ポンコツ人形。魔力、近づいている?」
「ええ……所有者様とエリーゼは、下がっていてください。宿主様、申し訳ないですが、お身体お借りいたします」
「え……もしかして、またゴブリンですか!?そう言えば、また、人がいなくなっています。これが、ガブちゃんの言う結界ですか?」
「そうです。では……ふむ……どうせですし、こっちのマナーに従って、言っておきましょう、『聖なる剣、まだ見ぬ世界を望み、朽ち果てぬ力を手にするのは、聖痕の刻まれし剣、カリバーン』と言ってください!」
「え……えと……聖なる剣、まだ見ぬ世界を望み、朽ち果てぬ力を手にするのは、聖痕の刻まれし剣、カリバーン!」
ガブは、どう行った時でも平常運転であるが、いたって真面目に話しているので、千三十は、良く分からず、掛け声を言ったのだが、その瞬間ガブと共に千三十は、光に包まれ、ビキニアーマーに、青と金色の装飾を施した聖剣カリバーンを握っていた。
「だからなんでビキニアーマーなのですか!?」
『宿主様!来ます!』
そしてその瞬間、あふれだす魔力の正体、全身が黒い影に包まれた小さな人型が、突如現れ、黒い剣を千三十に振り下ろした。
「あは……セイケンだぁ」
「な……なんですか!あの影!あれもバグですか!?」
『そうですが、ゴブリンなんかとは、桁違いです!』
「がブだぁ……セイケン……壊す。帰還者たちも……こワス……あははは!」
影と千三十の剣撃が飛び交う。影の剣筋を避け、自らの剣撃を入れる千三十、しかし影は、全ての剣撃を受け流し、避ける。ガブのサポートで戦う千三十が、わずかに不利であった。
「エリーゼ……今なら、古き悪しき世界、何分くらい持つ?」
「人払いの結界があるから、精霊の風が無いのは同じだけど多少は、使えるはずでけど……アンタ……まさかあの怪物に挑む?」
「もちろん、ただ、今は、聖剣を千三十に持たせていないと危ないからな、鉄パイプ……近くの工事現場から、一本拝借する。エリーゼは、古き悪しき世界で、俺の弱化を解いてくれ」
……俺は、屋上でかけてもらった呪文により、今、高校生レベルまで身体能力が落ちているが、非常事態である、わがままは言えない。
「たく!貸しは、いらないわ!チサトのためだもの!それに、今なら、多少私も役に立つ」
エリーゼは、俺の提案に乗ってくれた。精霊の風は、今も、ほぼゼロに近いが、肌で感じる精霊の風。修正力によってできた人払いの結界を保つためにどこから湧き出ているのだろう。
「たのむ!エリーゼ!」
俺が、エリーゼに呪文を頼むと、エリーゼは、空間魔法の呪文を唱えた。
「我は、全にて一であるもの。冒涜するのは、時空と信仰。巡り巡って舞い戻るは我が体内(うちゅう)。世界の理を冒涜せよ。『古き悪しき世界』続いて、解除魔法!呪文省略!『愚者(フール)』」
世界が、書き換わる。周りの建物は、落書きの様になるどこか不思議な空間。エリーゼの空間魔法は、自分の好きな状態に、世界を一部書き換える魔法により、疑似的な精霊の風が現れ、俺は、魔力の放出が可能になっていた。
そして、体に力がみなぎる。俺にかかった弱化魔法が解除されているのが分かった。
「エリーゼありがとう」
「御託はいらない!チサトを助けなさい!」
「もちろん!さて……マビノギオン」
俺は、持ってきた、鉄パイプに呪文を唱える。マビノギオンは、手に持ったものを剣としての性能を付加する呪文……これにより俺は、何気ない棒で、影と戦うことができる。
「ガブ!」
『かしこまりました』
「きゃあ!」
俺の掛け声と共に鍔競り合いをしていた千三十がガブによって、強引にしゃがんだ。
俺は、その上から、鉄パイプを横薙ぎにした。
「おいおい……バグってレベルじゃないぞ、コイツ」
俺の剣筋は、一応、異世界の時では、不可視の抜刀と言われていたのだが、これを今まで受け止めたのは、俺の死んだ恋人ジャンヌとエリーゼだけだった。
「伸介!私達も手伝います!」
「シンすケだあぁ!あはははは!二本なら……わたしも二本……」
「なんですか!消えてください!」
狂ったように、剣を振るう影だったが、俺の鉄パイプと千三十の剣筋を防ぐ様に手から二本目の剣を発生させ、剣の振るい合いが始まる。
エリーゼは、状況に変化を求め声をかける。
「あんたら、最初で最後の支援よ!呪文省略『時間よ、止まれ』」
瞬間、時間が止まった。エリーゼの唱えた呪文は、時間魔法、体感で一秒だけ時間を止める魔法である。
一瞬の時間停止であるが、その一瞬は、決定的なものであった。
「『はあ!』」
俺は、影の顔面を一閃、ガブは、聖剣で、影の腹部に剣を突き刺す。
「あはハはは!凄い!」
影は、感触が一切もなかったが、俺達の一閃は、影の一部を払い纏っていた影が払われ、影の素顔が、現れる。
「うそ……だろ」
「え!そんな……」
『……く』
「え……女の子?」
俺と、エリーゼ、そしてガブは、その素顔を見て、体が止まる。見たことのある素顔。
黒髪ロングヘアーを靡かせ、狂気に満ちているが、狂気の笑顔からもわかる慈悲深い顔。その顔は、俺の異世界での恋人でもあるジャンヌそのもであった。
「どうもおぉ!ワタしは、ジャんヌでス。この世界のバグの意思デす!」
「いや……嘘よ……なんであの子が……あの子が……」
エリーゼは、敵ながら、俺達の中に潜り込んでいた時、ジャンヌと親友の様に仲が良くなり、裏切った後も、敵ながら絆を感じていたのか、体が、動かないのか、現実逃避を始めた。
「そうでスねぇ、ですが、私はジャンぬです」
「……ジャンヌ?なんでいるんだよ」
俺も、エリーゼと同じで体が動かなくなっていた。当たり前だ、会いたかった相手が、目の前にいるのだから。
「答えハ、死デス」
ジャンヌは持っていた剣を振り下ろしてきたのが分かるが、俺は、動けない。当たり前だ、たとえ偽物でもジャンヌは、ジャンヌ。これ以上、自分の剣で彼女を傷つける訳がない。
『宿主様!』
「すみません!」
しかし、斬撃は俺に届かず、ガブが受け止める。
「ガブぅ……壊せナい。じゃましないで」
『ジャンヌは、相変わらず馬鹿です!私が、これ以上大切な人を傷つけると思いますか!?それに貴方は、バグです。私の知っているジャンヌでは、無いです。排除します』
「私は、貴方が、伸介や、エリの言うジャンヌさんの様なものなのかもしれないです。しかし、私は、生憎、貴方のことを知りませんので……覚悟はできています」
ガブや、千三十は、ジャンヌの姿のバグを否定し剣を構える。
ガブは、きっと、昔でも同じことをしただろう。しかし、その声は、震え、怯えていた。しかし、そう言った感情を押し殺しての覚悟だったのだろう。
「じゃマ!壊れろ壊れろ!コワレロ!」
「『断ります!』」
千三十とジャンヌは、お互いの剣を振るい、剣撃が再開されるが、俺は、尻餅をついてしまい、エリーゼも腰が抜けたのかしゃがみ込んでしまった。
「エリーゼ……」
俺達は、今の戦場では、ただの邪魔者、ガブと千三十が気にせず剣を振れるようにエリゼの所まで体を引きずり移動する。
「シンスケ……私、くやしい……なんにもできない」
エリーゼは、涙を流していた。感情が爆発したのか、混乱してるのか、いつもの強気なエリーゼは、どこにもいなかった。
「とにかく、一回逃げよう。俺達の今の状態、それに、今は、千三十もガブのサポートで、ジャンヌと対等だけど……長期戦に持ち込まれたら、負けるのは、千三十だ。早く……逃げよう。千三十たちを連れて」
「逃げるって……けど今できるのはなに……?」
「みんなで逃げる方法……この結界からは、逃げられるか?なるべく、ジャンヌがおってこないような方法」
……今は、完全に不利だった。俺もエリーゼも現実を認識するので精一杯。ガブがいるとはいえ、戦ったことがほとんどない、千三十は、圧倒的な不利な状況。俺たちは、立て直していかないといけない。
最悪で最善な選択しかない。
「ある……けど、今のままだと、チサトたちが遠くて逃げられない。みんなで手を握れば、私を中心に、脱出できるけど……精霊の風の残量から言えば、もう時間は止められない。戦っているチサトをどうやって、ここまで連れてくるの?」
「任せろ……アイツが、ジャンヌなら、一つだけ方法がある。だから、逃げる準備をしていてくれ」
俺は、上がらない腰を強引に上げた。恐怖が腰を下ろそうとするが俺も、男だ。あまり好きではないが、根性論と言うのは、こういう時に役に立つ。
「千三十!ガブ!このままじゃ不利だ!撤退するぞ!」
「『りょ……了解!』」
俺の声に千三十たちは、斬撃をやめようとするが……
「あははは!逃がさないよ……ニガサナイ!」
やはり、ジャンヌは、簡単に俺達を逃がしてはくれない。ここは、想定済みであったそれならできることは、一つだった。
「ジャンヌ……お前のことが!大好きだった!だいすきだったんだあぁぁ!」
叫ぶ、それも愛の告白。ジャンヌは、極度の恥ずかしがり屋で、あった。それなら、今のジャンヌも多少は、その個性を引き継いでおり。
「しンスケ!恥ずかしイ!」
俺は、異世界での愛をすべて、侮辱するような行為。この言葉は、もう言わない。今日、神社で願い未練を断ち切ったつもりだったのに……
しかし、効果は、てきめん。ジャンヌの動きが止まり、千三十は、急いで、その場を離れ、エリーゼの所まで走って行った。
「シンスケ!逃げられる!早く来て!」
「分かった!」
しかし、罪悪感は、今は、感じている場合ではない。とにかく逃げなくては……
俺も、エリーゼの展開した魔法陣に走って行き中に入った。
「ニガサナイ!逃げないで!」
当たり前の様に、ジャンヌは、俺達のことを追ってくる。しかし、わずかにエリーゼの方が早かった。
「全省略!転移!」
エリーゼの短い言葉で、俺達は、一瞬の浮遊感の後、元居た世界に俺たちは戻って行った。
「マッテえ……まって……。絶対さがしだす」
最後に聞こえた声は、恐ろしいものであったが、ジャンヌのセリフとは逆にギャップがあり、現実感はなく、不思議とそう言う恐怖には至らなかった。
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