17話『コーヒーの味』
そして、俺達は、最寄りの駅から十分ほど歩きオフィス街にひっそりと建つ神社にようやくついたのであった。
神社は、建物ばかりのオフィス街には不釣り合いな建物であり、休日とはいえ、参拝客が多く集まっている。あの後調べたのだが、町中神社は、特殊な経歴から、パワースポットっとして、一部のオカルトマニアからは、人気らしい。
「さて、着いたが、変な場所にある以外は、いたって普通の神社だな」
「……まあ、それはそうよ。この神社は、願いが叶う神社だけど、結局神社だからね」
「で、来たのはいいけれどどうする?まさか、普通に参拝しておしまいって言う事ではないだろう?」
「え?そのまさかよ。とりあえず参拝してみようかしら?」
……うわぁ、ノープランだよ、コイツ。
「なによ睨んじゃって、だって仕方ないじゃない!魔力探査とかは、あのポンコツ人形レベルの魔力量じゃないと探知できないから、足をしかないのよ!」
「エリーゼって脳筋だよな……」
「なんですと!?」
「まあ、でも、願いが叶うって言っても何かしらのやり方があるんだろう」
「そうね、イオリ君に聞いたら、教えてくれたわね……えーと確か……」
エリーゼは、思い出すように顎に手を当てていると、撮影用の大きなカメラを持った男とマイクを持ったどこかで見たことのある女性が話しかけて来た。
「すみません、岳テレビの加藤と申します。インタビュー良いですか?」
「て……テレビ!ヤダどうしよう!いつも通りの服じゃない!」
岳テレビ……全国放送のテレビ局で、取材らしいが、テレビと聞いた瞬間、エリーゼは、手鏡で髪の毛を直し、大慌てで身なりの確認をしていた。
「おいおい、エリーゼ、そんな気にすることか?」
「シンスケ!だってテレビよ!しかも岳テレビって、全国ネット!あんまりにお粗末な姿を見せたら恥ずかしいじゃない!」
ここ最近、エリーゼに少しだけ親しみを持ち始めていたが、なんとなくエリーゼのポンコツな一面が見られたからと思うと感じてしまった。
そんなやる気満々な、エリーゼを見て、リポーターの人も少し嬉しそうに取材の内容を話してきてくれた。
「あら、お姉さん綺麗ですから、そのままでもいいですよ。まあ、今日は、恋人の願いを叶える神社に来ているカップルの取材に来たのです。早速ですが、質問よろしいですか?」
……その瞬間エリーゼの時間が止まったような気がした。おそらく……と言うか、俺も同じことを考えている気がする。
恋?カップル?それがどこにいる?俺は、恐る恐るリポーターさんに聞いてみた。
「あの?カップルってどこですか?ここには、何の変哲もない高校生二人しかいないのですが」
「あらあら!照れちゃって!もう!」
誤解を解こうとしたが、リポーターさんは、なに勘違いをしていた。照れていない、本心なんだが……
「そ!そうよ!私とシンスケがつつつ……付き合っているなんて!」
顔を真っ赤にして否定するエリーゼ。……余計に疑われるような気がする。エリーゼが慌てているのに俺まで慌てては、いけない気がした。俺は、慌てないように、そして、どうにか誤解を解くように答えるべきと判断した。
「では、お二人の出会いを教えてください!」
リポーターさんは、ワクワクした顔で、質問をしてきた。
「で……出会い!?えぇと……えぇと」
案の定慌てるエリーゼの代わりに俺が答えることにした。
「そうですね……俺たちは、はじめは、お互いよそよそしかったのですが、時が経つにつれ、エリーゼに裏切られたりして、中々大変でした」
「ちょ!シンスケ!?」
「大丈夫、俺に任せて」
完璧だった。こうやって仲の悪いアピールをすればきっとレポーターさんもドン引きして、取材を打ち切ってくれるはず……
「わー!波乱万丈だったのですね!素敵な恋物語です!」
「え……えと……はいぃぃ!?シンスケ!数秒前の俺に任せろってなんだったの!?あんなにかっこよく決めてなんも決まってないじゃない!」
「あははは……すまん」
結局、この後、誤解が解けることはなく、俺達は、死んだ魚のような目でインタビューに受け答えをした。
レポーターの脅威から逃れた俺たちは、疲れ切った表情のエリーゼと共に境内をとぼとぼと歩いていた。
「なあ……エリーゼ、本当に噂を試してみるのか?俺たち恋人でも何でもないんだぞ」
「しょうがないじゃない……ここまで来たのよ……やるしかないわよ……ある意味恋人みたいなものじゃない……殺し合った仲っていうのは、恋人にも勝るアドバンテージ……のはず」
「そう言うものかね……」
俺達は、そう言いながら、賽銭箱の前に立っていた。しかし、殺し合った仲と恋仲をアドバンテージで比べるようなものではない気がするが、ここまで来て何もしないのも、来た意味がないのでとりあえず、参拝は、しておくことにした。
「とりあえず手水舎で手を洗う。そして、賽銭して、鈴を鳴らす。最後は、二拝二拍手一拝が作法だ」
「なんというか、日本人って真面目よね。そんなに長い作法を現代まで続けているのだもの……もっと簡単にお願いを三回言うとかじゃダメなの?」
「マナーだからな」
「あーハイハイ!さっさと終わらせましょう。またカップルとか言われても私は困るもの……きゃあ!」
エリーゼは、また俺の前を走って行ってしまおうとしたのだが、瞬間、エリーゼが段差につまずいた。俺は、まずいと思うより先に体が動いていた。
「おっと……大丈夫か?エリーゼ?」
「えぇ……私は、大丈夫……よ……」
俺は、何とかエリーゼを受け止めることができたのだが、エリーゼは、転んだ恥ずかしさからか、顔を赤くしていた。
「なんだ、顔が赤いぞ、エリーゼ?安心しろ、今のは見なかったことにしてやるから」
「そ……そう……」
安心させるつもりだったのだが、顔の赤みが引かないエリーゼ……もしかして熱なのかもしれない。
「本当に?」
「近い!近いわよ!ちーかーいーわーよー!」
俺は、エリーゼのおでこに自分のおでこをつけようとしたのだが、エリーゼが大暴れして防がれてしまった。
「……すまんな、女の子のおでこは、安易に障るもんじゃなかったな……すまん」
「なによ……いきなり女の子扱いしちゃってさ」
少し不満げな表情のエリーゼだったが、いつになくおしとやかと言うか、女の子らしい姿に正直少しドキッとしてしまったが、俺はそれを神社のせいにしておいた。
「ほら、参拝するんだろうさっさとすましちゃおうぜ」
「調子狂わね……」
俺達は、こうして、手水舎に移動し、手を清め神社に向かった。そこからは特にトラブルはなく、鈴を二人で鳴らし、二拝二拍手一拝……この無言の空間で、俺は、エリーゼが何を願っているのか気になりながらも、わざと叶わない願いをした。
それは、ジャンヌと最後にもう一度話したい。
自虐でもあるような、願い。まあ、分かれた未練を断ち切る意味も込めて、最後くらい未練がましく、人間らしく願いを託したのであった。
……短いが長く感じる沈黙の時間が流れた。
「……さてと私は、願ってやったわよ。神様でも叶えがたい願いを」
「俺も終わった。こんな願いを叶えたら、神も流石にいるだろうと思うぐらい無理難題を願ってやった」
……短い会話で合ったが、なぜか、面白くなってしまい、二人で笑ってしまった。
「あははは、なんだよそりゃ」
「ふふふ、シンスケもなによ、その願い」
「まあ、気にするなって……そうだ、どうせだから、昼ご飯でも行かないか」
「そうね、今日は、いつもおいしいご飯作ってもらっているから、私が、いいお店紹介するわね」
「お……おう」
エリーゼは、笑顔で、俺にお気に入りのお店を紹介してくれた店のコーヒーは、今までに飲んだことがないくらいに絶品だった。
しかし、エリーゼの笑顔に俺は、ドキドキしてしまい、コーヒーの味なんて分からなかった。
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