16話『調査』

 確かに感じた魔力をたどり、俺は、補習を抜け出し、現場まで走り出す途中、同じく魔力に気が付いたエリーゼと繁華街まで走っていた。

まあ、かっこ悪いことに、肉体の弱体化を受けている俺は、エリーゼにお姫様抱っこをされていたが、そこは、気にしない。

「おい!エリーゼ!お前も感じたか!あのでかい魔力!」

「感じたに決まったじゃない!なんでこの世界で魔力が放出されているかなんてわからないけれど、とにかく今は、急いで行くしかない!捕まっていなさい!」

「おう!おう……」

情けない。世界を救った勇者が、お姫様抱っこされているなんて、こんなのガブが見たら、大笑いされるのだろうか……

しかし、肉体の強化が続くエリーゼの速さは、尋常ではなく、そんなことを考える暇もなく、現場の繁華街に着いた。

「着いたか……、エリーゼありがとう。降ろしてくれ」

「はいはい……たく。こんなことなら、肉体の弱化の呪文なんて唱えるんじゃなかったわ」

「うるさいな……しかし、感じるか?これは、人払いの結界が働いている」

「そうね……この奥よ!」

エリーゼが、繁華街の中心に走り出し、俺もそれについて行くと、そこには、きわどいビキニアーマーを着た血まみれの幼馴染がいた。

「おい!千三十!」

「チサト!」

俺達は、最悪な想像をしてしまい走り出したのだが、千三十は、俺達に気が付いたのかこっちを向いた。

「え……伸介?エリ!?きゃあぁぁぁぁ!」

千三十は、自分の体を隠すようにうずくまった。どうやら元気ではあるが、状況が状況であったのだが、その瞬間、千三十の体は、光に包まれ元の制服姿に戻り返り血もなくなっていた。

「……あれ?チサトが元に戻った?」

「いや!エリーゼ!よく見ろ!光の塊が集まっている!」

光の塊は、段々人の形を形成しはじめる。そうして、次の瞬間、光は消えると、そこには、俺の学校の制服を着た異世界での相棒、ガブがいた。

「……お久しぶりです、所有者様。それに淫乱魔族の幹部様」

相変わらずの毒舌にどこか、人形じみた表情の少女は、まさしく、ガブだったのだが、俺が声をかけようとした瞬間、先に声を発したのはエリーゼだった。

「誰が、淫乱よ!と言うかなんでアンタがこの世界にいるの!?聖剣カリバーン!又の名を猥語聖剣!」

「相変わらず、語彙力が致命的に足りませんね。流石、魔族です」

「なによ!このポンコツ人形が!」

「ああー」

うん、そう言えば、俺もエリーゼと仲が悪かったが、それ以上に仲の悪いコンビがガブとエリーゼだった。

顔を見れば喧嘩するし、どんなにシリアスな展開でもこいつらは、出会った瞬間、即口喧嘩をしていたのだ。この光景、なんだか、凄く久しぶりな気がするな、この光景。こうなったら止まらないので、俺は、先にしゃがんでいた千三十の手を取った。

「大丈夫か?千三十?」

「あ……ありがとうございます。しかし、なんというか……乙女としてしてはいけない格好をして、返り血を浴びるなんて考えてもいなかったです」

俺は、驚いた。何かに襲われていたのだ。しかし、それを追い払ったのは、紛れもなく千三十である。

「な……なにがあった?」

「ええと……その、ガブちゃんに追われたら、なんか出てきてそうして、変なの出てきて、ビキニアーマーになって……えとえと……」

「ほら、慌てるな、千三十。まずは、頭の中を整理しろ」

慌てている千三十を俺は、落ち着かせるように声をかけると千三十は、落ち着いてきたのか息づかいが元に戻ってきた。

「えっと……まずは……」

「待ってください宿主様!説明は、私、ガブにさせてください!」

「ンーー!ンン!」

いつの間にか、エリーゼを麻紐で亀甲縛りにして、満足げな表情をした制服姿のガブが、俺達の横に入ってきた。

「……説明は、良いのだが、なぜガブがこの世界にいる?修正力の問題でこの世界には、これ無い筈だろう。それに、千三十が宿主ってどういうことだ?」

「やれやれ、所有者様は、せっかちですね。順番に説明しますから」

この人を煽るような独特なしゃべり方は、まさしく本物のガブであったので、俺はとりあえず、ガブの話を聞くことにした。

「まず、端的に所有者様達が、修正力によってこの世界に帰ってきたはずみで、修正力に歪ができてしまいました。それによって、エルスダムと現代日本が、一部接触してしまいました。まあ、五次元的な接触なので、認識自体はできないのですが、まあ、ワープホールができてしまったという認識でいいですね」

「ふむ、なるほど、良く分からん」

つまり、どういうことか、さっぱり分からないが、そもそも、俺達が異世界に飛ばされた理由も説明されたが、さっぱりだったので、気にしないことにした。

「まあ、歪ができたことによって、この世界にゲームで言うバグが生まれました。具体的には、エルスダムに居た生物そっくりのコピー生物が現代に現れるようになったのです。今は、修正力によって、人払いが起きるので被害は、確認されていないのですが」

「な……!待て!異世界で苦しめた生物が現代に!?」

俺は、衝撃を受けた、異世界に現れたモンスターが、気が付かない所で起こっていたとは……しかし、そんな中置いて行かれていた千三十が、呆れたように入ってきた。

「あの……シリアスな話をしている雰囲気ですが、流石にエリをあの状態でスルーするのは、流石にかわいそうなのでは?」

「「あー、そうですねー」」

「うわぁ……心の底から不服そうな顔」

しょうがない、エリーゼがいても、ガブと喧嘩してしまうので、そのままにしたかったのだが、エリーゼも聞きたいことがありそうなので、俺は、渋々麻縄をほどいた。

「……げほげほ!ありがとうシンスケ」

「別に……うちの相棒が、悪いことしたな」

「気にしなくていいわよ……ただ、あのポンコツ人形には、聞きたいことが山のようにあるのだし、助かったわ」

「所有者様とエリーゼが、普通に話している……ですって……」

俺達が、言葉を交わしているだけなのに、ガブは、驚愕していたが、そう言う話は、後でしてやりたいので、俺は、ガブを少しだけ急かした。

「ガブ、後で話すから、とりあえず、話の続き」

「ちぇ……後で、微妙に二人が仲良くなっている件についてしっかり聞きますからね……えと、そうですねでは、私がこっちの世界に来た経緯を話します」

ガブは、少し残念そうなに口を開くが、表情は、いたって無表情。なんだか会ったばかりのガブを思い出してしまう。

「エルスダムは、あの後、残党魔族の扱いにも着手しはじめ、平和を取り戻しつつありました。しかし、ある日、突然、空に穴が開いて、しまいました。調べると、その穴は、所有者様の世界につながっていました。私は、異常を感じ、聖剣の力を行使し強引にこっちの世界に来ると、エルスダムにいるような生物が、この世界でコピーされていることを知りました」

「待ちなさい!魔族の扱いって何!?それにコピーされた異世界の生き物って何よ!そんな生き物目撃されたら、今頃ニュースになっているわよ!」

魔族として転生した、エリーゼは、魔族の扱いや生き物に疑問を覚えたのかガブにツッコミを入れた。

「まあ、魔族との協和です。元々魔族との戦争の原因は、人間にも原因がありますので……まあ、その話は、今は、関係ありません。そして、二つ目の質問。なぜ、異世界の生物が見つけられていないか……簡単です。コピーされた生物を隠そうと、この世界の修正力が、自然現象の様に人払いの結界を放っているのです。分かりましたか、低能なエリーゼ」

ちょくちょく、嫌味を含むガブだが、エリーゼも今の異常事態に聞きたいことがあるのか、押し黙った。

「まあ、今は、まだ、結界によって発見されていませんが、この世界の修正力は、エルスダムの修正力より弱いので、目撃例が出ないのも今だけかと」

修正力が弱い……今まで、俺は、現象のように考えていたが、世界によって個体差があるのか……

「……なので、私は、この世界の異常を一人で解決するため、力の大半を振り絞り強引に移動してきたのですが、流石に弱い修正力でも私の魔力は、感知されるようで、消える寸前のところにこの世界の特異点である、宿主様……チサト様の体に憑依することによって、修正力から逃れました」

「それなら、言えば、私も手伝いましたよ……なぜあんなに怪しい登場の仕方をしたのですか?はあ……怖かったのですよ」

「あれは、趣味です」

会話から察するに、ガブは、とんでもない方法で、千三十の前に現れたのだろう。しかし、俺は、それ以上に気になることがあった。

「待て、なんで、ガブが、一人で、世界の異常を解決しようとしたんだ!あまりに無茶すぎる!いくら、ガブの力が無限に等しい力を持っていたとしても、俺の世界を救うなんて……」

俺は、相棒の愚行に叱咤をしようとしたのだが、ガブは、少し笑い、俺の口を自分の人差し指で閉じた。

「何を言っているのですが、私が恩人のために命を懸けるのは、当たり前です。それに、所有者様は、私にとって、自分の命以上に価値のある人です。だから、卑下しないでください」

「が……ガブ……」

「所有者様……」

ガブは、その小さい体躯を俺に寄せ、両手を俺の背中に回した。

「おい、馬鹿ども、なにラブコメをしている」

「あうあうあう」

エリーゼがジト目で俺を睨みつけて来たおかげで、路線を外すことはなかった。千三十は、恥ずかしそうに俺たちを見ている。

「ちっ……空気の読めないバカは、嫌いです」

「うるさいわね、良いから、あんたの目的をしっかり言いなさい。回りくどい説明ばっかりだからいい加減飽きて来たの」

「……これだから、下品な女は……おっと!すみません、ついつい本音が……決して、エリーゼの事、話した訳じゃないですからね」

「あんた……ポンコツ人形の癖に言うようになったわね……」

路線が戻ったと思ったのだが、エリーゼとガブは、喧嘩しそうな雰囲気になり余計に脱線するところだったので俺が仲裁に入った。

「はい!待て!ガブ、いいかまずは、お前の目的を教えてくれ」

「そうですね。一言で言えば、今回のバグ騒ぎの解決です。しかし、私だけでは、解決できないことが分かりました。なので、宿主様はもちろんですが、所有者様と……そこのバ、じゃなくて、エリーゼにも手伝ってほしいのです」

「ハン!それが人に頼む……」

堂々とした、姿勢。初めて会った頃には、ありえないような意思のある表情に、俺達の答えは、決まっていた。

「私、手伝います!ガブちゃん!」

「俺も手伝うぞ!相棒!」

エリーゼが何か言おうとしていたが、そんなのは、気にしない。俺たちの意思は、もうとうに決まっているのだから!

「ふ……二人とも」

すこし、緊張の糸が解けたのか、ガブの表情が緩んだ。

「だ……だから……私は、手伝うなんて……」

「エリーゼも、俺と同じ、元異世界転生者として頑張ろうな!」

「そうです!エリ!頑張りましょう!」

「え……えと、だから」

戸惑うエリーゼ、どうせ協力しないとか言いそうだったので、俺は、エリーゼに畳みかける。千三十も意図を知ってはいないだろうが、加勢に入ったため、エリーゼは、断るに、断れなくなっていた。

「わ……私も手伝うわよ!」

「エリーゼ!」

「エリ!」

「……チョロイン」

俺達は、三者三様?の歓喜をあげるのだが、エリーゼは、少し不服そうであった。

「ち……、チサトのためだから!あんたらの為じゃないんだからね!」

柄にもなくツンデレな、発言をするのだもの、相当エリーゼは、テンパっていた。しかし、エリーゼの参加によって、俺達、四人は、バグ騒ぎの解決をすることになったのであった。


 そして、さんさんと射す太陽の日がまぶしい休日、俺達は、バグ探しをすることになったのだが……

「なぜ、エリーゼと二人でバグ探しをしなきゃいけないのだ……」

「私だって聞きたいわよ……」

俺とエリーゼは、なぜか二人で、バグを探すことになっていたのだった。これには、丘より低く、水たまりより浅い理由があった。

単純にエリーゼとガブの仲が悪すぎて、バグ騒ぎを探す前に乱闘騒ぎになりそうになってしまった。

「……なんで、会って早々にお前らは、喧嘩になるんだよ」

「しょうがないじゃない……あのポンコツ人形が、私の顔見て、いきなり不景気そうな顔ですねとか言うのよ!」

「小学生かよ!」

と言う訳でエリーゼとガブを一緒にしてはいけないという理由によって、建前上は、効率よく、安全に……本音は、危ないから。

と言う訳で本当は、ガブと俺、エリーゼと千三十になるはずだったのだが……

「たく……でも、あのポンコツ人形が、チサト居ないと修正力の影響を強く受けるからって、私とシンスケで、バグの調査をすることになるなんて……」

「我慢しろ……俺だって我慢して、お前と組んでいるのだから」

「むぅ……納得いかない」

ガブは、まだ、千三十から、離れて行動しすぎると修正力によって、元の世界に戻されかねないため、千三十とガブ、俺とエリーゼのコンビになってしまった。

千三十は、力強く、頑張ってくださいと言ってくれたが、頑張れる気がしない。

「とりあえず、もうこの際は、諦めてどうやってバグを探すかだが……」

「そうね……あのポンコツ人形は、多少なりとも、私たちの世界にバグが出た時点で、なにかしらの痕跡……噂とかそう言う類として、残るって聞いたけれど……」

「噂ねぇ……伊織がいれば、噂とかいっぱい知っているのにな……」

いつも必要ない時にいて騒ぐが、必要な時にいない。流石は、伊織だ。

「あーうん、イオリ君?今、大丈夫?……ありがとう。あのね、私、今、イオリ君が知っている噂話が聞きたいなあって思って……ううんそうじゃなくて……」

「おい、何をやっているエリーゼ」

エリーゼは、無言で、俺を睨むと持っていた携帯電話で話を続ける。

「ううん……何でもないの。うん、で、良い噂を教えて!うん……うん……本当!ありがとう!え……うん!じゃあね!」

携帯電話の操作を終えると、エリーゼは、俺を置いてさっさと歩きだした。

「お……おい!エリーゼ!?」

「まずは、町中神社に行くわよ。早く!急ぐわよ!」

「おい!なんだよ!町中神社って!」

一切の説明もなく歩き出すエリーゼに俺は、慌ててついて行きながら、聞くと、簡潔に答えた。

「まずは、都市部にある神社よ。この神社、昔取り壊そうとしたら祟りが起きて、結局そのまま残っているのよ。ここの神社は、元から、願いを叶える神社として有名で、祟りも、神社が、自分の願いを叶えたらしいの。さあ!行くわよ、町中神社!」

明らかに伊織に聞いて知った噂を自分の知識の様に披露するエリーゼ。俺は、イオリに何を聞いたのか聞こうとしたが、すたすた歩いて行ってしまうエリーゼは、全く答えなかったのであった。

「だから待って!」

「なによ、別にデートじゃないのだから、隣を歩く必要ないじゃない!私が、知っている噂を全部検証しに行くわよ」

……絶対に聞いた噂だろうが、俺は、今それを言っても、変わらないので、エリーゼについて行ったが、最後に一つだけ言っておかないといけないことがあった。

「隣を異性が歩いたらデートとか、乙女かよ……」

「う……うるさいわよ!」

エリーゼは、速足で、俺を突き放していった……いや、気にすぎだろう。俺たちの仲でデートとかありえないのに、なにをエリーゼは、気にしているのだろうか?

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