15話『魔法少女キラキラビキニ☆みそぎ』


 放課後の帰り道の繁華街、天気は淀み、まるで私の気持ちをそのまま表したような空模様。私は、一人でため息をつく。

「はあ……私、何やっているのでしょう……伸介が帰ってきたのに、積もった話だってまだまだあったはずなのに、言う機会失ってしまいました。って!ため息ついている場合じゃないです……なに一人で話しているのでしょうか、三十木千三十!」

ため息の理由は、簡単だった。伸介の前では、心配されるから泣かないと誓ったのに号泣してしまった。そして、伸介は、補習。エリは、部活の助っ人で、久しぶりに一人での帰宅となった。

「寂しいです」

言葉は短いが、意味は、深い。今まで、伸介と私は、同じ時間の流れで過ごしていた。しかし再会した伸介は、私とは、違う時間を過ごしていた。寂しい。

その感情が、私の中を駆け巡る。会えてうれしい筈なのに。

「寂しいですよね。私もそうです。所有者様と別れてからずっとそう考えています」

「そう寂しいです。なんでこういう感情に……だ、誰ですか!」

私に話しかけてくる知らない少女の声、私は、驚いて、振り返るとそこには、黒いローブに深くフードを被った少女がいたのだった。

表情が見えないのでとても怪しい。周りに居たはずの人は、みんなどこかへ消えてしまい、繁華街にいるのは、私とフードの女の子のみ。その光景は、不気味で私は、怖いと感じています。

「私は……そうですね。あなたです」

「い……意味が分かりません」

「……説明が難しいのですよ。私だってこの世界じゃ、無意味に世界を荒らすバグと同じ扱いを受けているのですから。とりあえず作業だけは、早く終わらせないと」

フードの女の子は、意味の分からないことを言う。そうして、手に持った小さな植物のような種を私の額に近づけようとする。

本能的に分かった、危険だと。私は、フードの女の子の手を振り払うと、家とは逆方向に走り出した。

「あー、逃げないで……と言っても私の見た目は十分怪しいですし、しょうがないですか」

私は、走る。走る。走る。

誰もいない、道を走り抜ける。しかし、インドア派な私が、そう長く走れるわけもなく。

「はあはあ……つ……疲れました」

「そうですか。しかし、こっちの世界の宿主様は、いささか、貧弱すぎる気もしてしまいます。まあ、宿主様は、選んでいたら、修正力によって元の世界に戻されてしまいますので、わがままは、言っていられないです」

「な……!なんで!私、全力で走って逃げて来たのに!」

目の前には、汗一つ流さないで、私の前に立っているフードの女の子が、どこまでも無機質なしゃべり方で私の目の前に立ち話しかけた。

「さて、エルスダムのことは、話せないので、こういう時は……そうだ、所有者様に聞いたこの世界のセリフで勧誘すればいいのですね」

「はあ……はあ……か、勧誘ですか?」

ローブの女の子は、エルスダムと聞き覚えのあるようなことを言っていた。しかし、私に今それを考える暇はなかった。ローブの女の子は、きれいな手を私に向けると一言、聞いたことのあるようなセリフを放つ。

「……いえ、汝が、我が宿主か?うむ……違います。こっちですかね?私と契約して魔法少女になってください」

「はい?」

「ふむ、好感触。やはり、初対面の相手には、こういったこっちの世界でもよく聞くような馴染のあるセリフの方が、良いのですね」

「ま……待ってください!それは、アニメでは、よく聞くセリフですが!現実でそういう痛いセリフを言う人なんていないです!」

ついつい、いつものノリで、ツッコミが出てしまう。なんというか、言わないといけない気がしたからなのだが……。

しかし、フードの女の子は、ふむふむと、口元に手を当てる。

「そうですか、では……エルスダム流に強引な感じで契約しますか」

「え……エルスダム!?グフ!」

ローブの女の子は、その細腕からは、ありえないような力で、私の喉を掴み持ち上げる。

死を感じてしまった。

意味の分からない少女に、首を絞められ死ぬ。意味の分からない死因で私は、死ぬのか。

そう思っていたがローブの女の子は、不思議そうに私に聞いてくる。

「あら?エルスダムのことを知っているのですか?」

「エルスダム……私の幼馴染が、つい…この前までいた所です」

そうエルスダム。伸介や、エリが飛ばされた世界にある国である。彼女がそれを知っているということは、もしかしたら、彼女は、その世界の住人なのかもしれない。

「そうですか……では、奇遇です。話しは、早いです。……と思いましたら、ここにもバグですか、知ってはいましたが、中々空気の読めない連中です」

「きゃあ!」

突然の爆音と共に、私と彼女の前に黒い空間の裂け目が現れ、中から、ゲームに出てくるような、緑色の肌をした一メートルくらいの人型の生物……ごぶりん?の様な鬼が大量に出ってきた。

「ふむ、普通でしたら、脅威にすらなりませんが、私は、彼らよりもおかしいバグ。力を私だけで使ったら、修正力によって確実に消されてしまう」

「あ……貴方は、何を言っているのですか?!逃げないと!……きゃあ!」

私は、慌てて、彼女の腕を握って逃げようとした瞬間、ローブの女の子は、私に抱き着いてきた。

「しかし、この世界の宿主様がいれば、それは、別の話です」

そう言うと、手に持っていた種を私の額に押し込んできた。種は、物理法則を無視し、私の額にめり込んでいく。

「あが!な……なんで!」

「安心してください。痛いのは、ちょっとの時間です」

「うぐ!」

痛い痛い痛い!全身に激痛が走る。神経の先まで、私の体は浸食される。全身を五寸釘で打ち抜かれるような痛み。

「では、失礼いたします」

ローブの少女は、私の中に種が入っていくにつれて、姿が、消え始め、痛みがやむころには、もう姿はなくなっていた。

「ゆ……夢でしょうか?」

私は、痛みが消えると、不思議と体が軽くなり今まであったことは、夢のようにも思えたが……。

「gcjkh;hczsDhcs醸・k;c!」

「jdsbはvbj;ch字h!」

「夢じゃないです!」

ゴブリンは、動かない私を格好の獲物と思ったのか、集団で、手に持った棍棒を振り上げて来た。

『何をしているのですか宿主様!悪いですが、お体、お借りいたします!』

脳内から響くのは、さっきまでいた女の子の声。体を借りる?どういうことかと考える間もなく、私の体は光に包まれゴブリンは遠くに吹き飛ぶ。

『行きますよ!私と一緒に唱えてください!』

「え!なにを!」

『いいから!聖なる剣、まだ見ぬ世界を望み、朽ち果てぬ力を手にするのは、聖痕刻まれし剣、カリバーン!』

「え……と聖なる剣、まだ見ぬ世界を望み、朽ち果てぬ力を手にするのは、聖痕刻まれし剣、カリバーン!」

瞬間、私の体は、光に包まれ、着ていた制服は、光の粒子に変わった。

「な……なんで裸に!」

しかし、粒子たちは、私の体を隠すように集まりはじめた。そして、白と青のコントラストの鎧が体を包みはじめ、手には、握った事すらないのにやけに馴染む剣が出て来た。

『成功です宿主様!これが、聖剣カリバーンの正装。ガブちゃん特選きわどいビキニアーマーです!と言う訳で、初めまして!わたくし、聖剣カリバーンことガブです。よろしくお願いいたします』

「あ……これは、ご丁寧に、私は、三十木千三十です。って!なんですかこの恰好!恥ずかしすぎです!」

私の姿は、白と青の鎧が、大切な所をかろうじで守るようなビキニアーマー姿。対して、私の脳裏に映った栗色セミロングの髪の毛とメイド服が特徴的な女の子。

自分のことをガブと言っており、恐らく、ローブの女の子の正体なのだろうか、はっきり言って怪しい。

『まあ、細かいことは、後で!今は、あの雑魚を蹴散らしてください!』

聞きたいことは、山ほどあったが、そんなことを言っている暇もなく、吹き飛ばされたゴブリンが、私たちに向かい再度走り始めた。

『今回は、体の操作を私に任せてください!』

「え……ええ!」

ガブは、そう言うと、私の体が勝手に動き出した。

「きゃあ!なんですか!い……いやあぁぁぁぁぁ!」

私の体は自分の意思とは、関係なくゴブリンの群れに突っ込んでいく。そして、剣は、ゴブリンに向かって振り下ろされた。

紙を切る様にゴブリンを私の体は、切り刻んでいく。

「いやあぁぁ!意外と感触が生々しい!」

ゴブリンは、簡単に切り伏せられていくのだが、その感触は、生々しいもので、鮮血が噴き出し、返り血は、私にかかる。ガブちゃんは、魔法少女とか言っていたが、そんなファンシーなものではなく有るのは、血と肉塊である。

『宿主様!安心してください!こいつらは、バグ!生き物なんかじゃありません!』

「そ……そんなことを言ってもおぉぉぉぉ!」

私は、左右から襲ってくるゴブリンを、一薙ぎで切り捨て、その後、前後から迫ってくるゴブリンをジャンプでよけ、切り捨てる。

「ダメです!こんなきわどい格好で、飛んだり跳ねたりしないでください!」

『宿主様!あまり口を開いているとゴブリンの血を呑み込みますよ!』

「もう嫌ですうぅぅぅ!」

数分の乱戦の後、そこに立ちあがっていたのは、血まみれの私と脳裏に映るやけに満足げな、残虐メイドだけであった。

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